| 4月度「ココロの1枚」 非兄弟トライアングル衝突的調和の美学: THE POLICE "Zenyatta Mondatta" |
あえて大有名アーティストのアルバムに迫る大変なシリーズ第5回。今回もつけ込み企画ということで、スティングのニュー・アルバム発売間近に便乗、いつかとりあげねばと思っていたポリスの5枚から、最も思い入れが大きなこの3作目をセレクトしました。
さてポリスといえば、珍しく登場から解散(?)に至るまで真剣にリアル・タイムで聴き続けた貴重な存在であります。それこそ5枚のオリジナル・アルバムだけではなく、80年と87年に各々出たシングルのBOXセット「メッセージ・フロム・UK」と「POLICE BOX」も購入しアルバム未収録曲もほぼ完全に網羅してる。だからこそ94年に出たほぼ全音源を収録したBOXセット「メッセージ・イン・ア・ボックス」は買っていないし。その頃になるとスティングのソロ活動もそんなに熱心に追わなくなっていた。そのツケが来たか、去年バーゲン・セールでやっと2枚組のライヴを買ったら、1枚目だけしか入っていなかったと。悲しすぎ。
ポリスの何が魅力的だったって、やはり「世界最強のロック・トライアングル」と謳われただけある3つの個性のひしめき合いに尽きる。それまでもクリーム、EL&P、BB&Aなど3人組ならではの駆け引きがテンションを産む前例は認識してたけど、やはりロック界がパンクの衝撃をもろに受けた後で登場した彼等の衝撃は凄かった。ファースト・アルバムからのヒット曲「ロクサーヌ」のプロモーション・ビデオの最後で、スチュワートのドラム・セットをスティングが思いっきり蹴ってるシーンに妙な男気を感じたのだ。その頃彼等は伝説となった京大講堂でのライヴも行い、一躍ニュー・ウェイヴの旗手として人気が沸騰したのだ。
3人組ならではのテンションってなんなんだろう。例えばビートルズなら、ジョンとポールという超個性派をジョージとリンゴがうまく支えて、いくらグループ内に亀裂が走っていながらもセッションの合間に4人揃って映画を見に出掛けるほどのバランス感覚が保持されていた。キンクスのデイヴィス兄弟とそれ以外のメンバーの関係にしたってそうだし。一見フレディの個性だけが際立っていそうなクイーンにしたって、ヒット曲の作者クレジットを見れば4人の民主的関係がうまい具合に結び付いていたのが解る。ツェッペリンだってフーだって。しかし3人となると四角形をただ半分に割ったでは済まされないぶつかり合いが、1対1、また別の1対1、そのまた別の1対1で展開され、そこには民主的関係なんてなんぼやという無数エゴのひしめきあいが発生される。それなりの力関係がグループに存在していたからこそ、3人組はテンションを産みつつ芸術的に冴えた成果を残し続けることができたのである。だからロジャー・ウォーターズの抜けたピンク・フロイドは失敗(興行的には成功したが)したんだし、クイーンやツェッペリンは崩壊した。「3人が残った」ジェネシスはかえって成功したというわけなのだ。今、このジェネシスと先に出たクリーム、そして今回の主人公・ポリスから一人づつ違ったパートを取り出して組合わせると、また別の意味で「ロック最強トライアングル」(爆)が作り出されてしまうのは何という皮肉(確かにこの3人の道はいろいろな所で交錯しているが....)
話がかなり横道にそれたが、ポリスは各々プログレ、サイケ、高校教師(!)といったバックグラウンドを持つメンバーにより構成されている。そしてそのエゴを思いきり衝突させられる場として、テクニック重視のプログレではなく、まさに「燃えている」音楽だったパンクを選びシーンに飛び込んで行ったのである。ただのパンクではなく、そこにレゲエの要素をちょっと加えて、泣きのメロディで味付けという。デビュー盤「アウトランドス・ダムール」はそれこそのっけから最後まで疾走しっ放しで、ラスト近くには妙な展開もあったがこれぞ当時中学生だった私を魅了するに充分の音楽だった。2枚目「白いレガッタ」は多少レゲエ色が強まったもので、スティングの泣きメロ節も全開、疾走感は薄れたものの充分好盤であった。当時A&Mはアルファ・レコードが発売していて、やたらYMOと抱き合わせやら比較(どこがや!)されていたのも懐かしい。彼等も3人組ならではのテンション高まりが持続させていたグループだったな。
それに続いて発表されたのが今回取り上げる「ゼニヤッタ・モンダッタ」である。丁度2度目の来日直前の発表ということで盛り上がっていた。奇しくもXTCの名盤「ブラック・シー」が同時期リリースされていたが、当時オルタナティヴの渦中にいた自分はポップ・グループとかそっち系に夢中で、XTCの方はなぜかチェックし逃していた。今考えるとポリスより遥かに高い評価を受けているアルバムだけど、その辺の体たらくは近々このコーナーでXTCを取り上げる時にまとめて話したい。しかしいくらオルタナ狂いといってもポリスはしっかりフォローしてたし、このアルバムも発売日に買いに行っていた。しかし妙なタイトル、今だに意味不明だ。もしかしたらBOXセットの詳しいライナーにでも意味が書かれているかもしれないけどね。
1曲目はスティングの前職時代の経験がものを言った感じの「高校教師」。のっけからベース・シンセの重厚音が鳴り響いたのは新鮮な驚きだった。あくまでも3ピースにこだわっていた彼等が初めてシンセを導入。といっても同年のクイーンの「ザ・ゲーム」とは違い、あくまでも控え目。来日公演をテレビで観たときも、スタンダップ・ベースを振り回しながら足でペダルを蹴って「ピー」というシンセ音を出していたスティングの姿は鮮烈だった。その時スチュワートのドラム・セットにもろ放送禁止用語が(日本語と英語で)書かれていたのも発見。NHKよく気付かなかったな。おっと、この曲はロリコン趣味(?)の男教師と女生徒の危ない駆け引きを描いたもので、のっけでは"Young Teacher...."とされている先生が曲のラスト近くでは単なる助平親父と化してしまっている。ああこわい欲望の世界。しかしこの曲もしっかり全米チャートでは10位を記録している。続く「世界は悲しすぎる」、「君がなすべきこと」とこの冒頭3曲の鮮やかな連なりは見事。スピード感を保ちつつ怪しい音空間を形成することに成功。この辺はレゲエの影響をうまい具合に消化した成果。「ブラック・シー」の冒頭3曲の勢いには負けるけど、これも軽視できない。「カナリアの悲劇」はB面の真ん中にある「スーツケースの流れ者」共々軽業という感じのポップ・スカ。この曲は以前渋谷陽一の「著作権料よこせリクエスト大会」にてデイヴ・エドモンズの「デンバーを離れて」(実はボブ・シーガーの曲)にそっくりと指摘された。並べて聴くと面白い。このアルバムの最初のトワイライト・ゾーンは続く「果てなき妄想」。ミニマル・ファンクとしか言いようのない演奏が見事な妄想空間を形成していて、この辺はプログレ経験がうまい具合に生きてると言えそうだ。A面ラストはスチュワート作による「ボムズ・アウェイ」。社会情勢を小粋に皮肉って見せるポップ。奇しくもXTCの「リヴィング・スルー・アナザー・キューバ」の裏もの。
B面はあの有名な「ドゥドゥドゥ・デ・ダダダ」からスタート。アメリカでは最初のシングルとしてリリースされ、これも第10位を記録。その他の国では「高校教師」に次ぐ第2弾シングルだったが、日本人として忘れられないのが湯川れい子さん訳詞による日本語ヴァージョン・シングルの発売である。「メッセージ....」BOXにはなぜか収録されなかったが、97年発売された「ベスト・オブ・スティング&ポリス」の日本盤にボーナスCDとして追加されている。(同じ様にBOX化されなかったスペイン語盤は「スターズ・イン・スパニッシュ」というコンピのみで聴ける。)最近大槻ケンヂのソロ・プロジェクト、アンダーグラウンド・サーチライもこの日本語ヴァージョンをカバーしているし、あのフェイ・ウォンは北京語でカバーした。うだうだいってる暇があったら実際うだうだだけで会話してみろという皮肉は万国共通である。続くのがトワイライト・ゾーン第2部、アンディ作によるインスト「ビハインド・マイ・キャメル」。なんとも異様なメロの繰り返しによって構成されるエキゾ・ファンク。これぞパンク・プログレ(?)と、初めて聴いた時は異常に感動を覚えた。プライマスが「ライノプラスティ」の中で全く忠実にカバーしている。このアンディ・サマーズ作品ってのは何て言っていいのか妙な味わいがあって、シングル「高校教師」のB面になった「フレンズ」(友達を食べるのが好きだという内容が恐ろしい)とか、後のシングルB面曲、アルバム「シンクロニシティー」収録の「マザー」など、まとめて聴くと何とも言えない体験ができると思う。やはりポリスはスティングが全てではないのだ。先に触れた「スーツケースの流れ者」を挟み、再びダブ感覚を取り入れ不思議な音場を作り出してみせる「シャドウズ・イン・ザ・レイン」(スティングの初ソロ「ブルー・タートルの夢」でリメイクされている)、そしてスチュワート作の変態フュージョン「もう一つの終止符」で幕。
この後ポリスは、プロデュースにヒュー・パジャムを迎えよりサウンドを壮大にパワー・アップさせた「ゴースト・イン・ザ・マシーン」、そして誰もが最高傑作として認める「シンクロニシティー」をリリース。このアルバムはA面が分裂症気味なのに対して、B面はとんでもなく深く物悲しい。ロック史上一つのアルバム・サイドにこれだけ美的に悲しい音が凝縮されたのは多分他に例を見ないと思うが、その4曲中3曲がシングル・ヒットしてしまったというのもまたポリスの勢いと偉大さを証明している。その物悲しい響きの余韻の中、3人は元のようにバラバラになってしまったのだ。絶好調であるスティングのソロ活動の傍らで、地道に自らの音世界を紡ぎ続けるアンディ・サマーズ。もう一人のスチュワート・コープランドはなに食わぬ顔でレーベル経営やポリス関連音源の発掘を続けているが、多分彼はまだまだポリスに愛着を持っていると思う。しかしスティングとアンディがその気にならない限り、ポリスが戻ってくることはないのだ。奇しくも去年ヒットしたリミックス・シングルの名義は「スティング&ポリス」となっていたが、いくらスティングのパートを残してあとは作りかえられているとはいえ、後の2人がかわいそうなクレジットのされ方である。