発売30周年記念!
丸芽志悟、ホワイト・アルバムを熱く語る!
本国イギリスでは68年11月22日、日本では翌年1月21日、ザ・ビートルズの自らの名を冠した2枚組アルバムは、彼等が設立したアップル・レーベルよりの初の作品(厳密には「ヘイ・ジュード」を含むシングル何枚かとジョージの映画音楽「ワンダーウォール」が先に出ているが)として期待が集まる中リリースされた。まっ白なジャケットに「The Beatles」という浮き彫り文字とシリアル・ナンバーのスタンプ。この単純なデザインから、この2枚は「ホワイト・アルバム」として全世界の人々に親しまれることになる。あれから丁度30年。丸芽は1976年の暮れにこのアルバムを初めて手にした。それ以降、モノ盤も含めて合計4回アナログで、今年になってやっとCDでこの作品を買い、ビーチ・ボーイズの「ペット・サウンズ」、ラヴの「フォーエヴァー・チェンジズ」と並ぶ常時愛し続けるアルバムとしてずっと座右に置き続けてきた。そしてこの11月、30周年を記念してオリジナル仕様を再現したスペシャルCDがリリースされた。ちゃんと文字が浮き彫りになっているし、シリアル番号も入っている。なんとオリジナル英国盤にのみ適用されていた、見開きの上側にレコード(この場合はCD)が収まる仕様まで涙ながらに再現されているし、従来のCDではブックレットにまばらに転載されていたオリジナル・ポスターも縮小してしっかり再現されている。当然これも買いまして、これで6組のホワイト・アルバムが手元にそろった。もち各国盤を買い集めているハードコアなビートルズ・ファンの足元に及ぶわけがないが、これとて自分がこの作品がいかに好きかってことを物語っているのだ。ちなみにシリアルNo.は0069720。(惜しい、あと1番後なら井上昌己の生誕年月日....)
この作品は彼等が設立したアップルの第一回作品ということで当然気合いを入れて制作されたというと嘘になる。長く暑いインドでのメディテーション習得の旅で、ジョンとポールは欲求を満たすかのように曲を書きまくり、帰ってきたら直ちにリハーサルをしてスタジオ入り。しかしアップルに向けての空しい野望に加え、ジョンが交際を始めたばかりのヨーコに夢中になってスタジオは緊張感の嵐。誰かが席を外そうが構わずに続行するセッションに堪え切れず、とうとうリンゴがしびれを切らせてスタジオを飛び出してしまい、エンジニアやプロデューサーまで離脱する始末。結局リンゴも含め最後には全員戻るのだが、この混沌とした状況が5ヶ月近く続く中ビートルズは34曲を録音し、その内大傑作シングル「ヘイ・ジュード/レボリューション」を除く32曲をさらに30曲に絞って、24時間ぶっ続けでアルバム2枚に編集、そしてでき上がったのがこの「ザ・ビートルズ」だったのだ。
何せ混沌の極みの中、何をやっても平気と開き直ったメンバー達は、ジョージ・マーティンの「1枚に絞ってもっといいアルバムを作るべきだ」という助言も無視して一気に突っ走ってしまった。しかしこのアルバムを1枚に凝縮するとなればどの手が最も有効なのだろうか。ポップな曲だけ14曲集めたとしても刺激に欠けるし、単純に1枚目と2枚目に分けたとしてもしっくりこない。この30曲が無頓着に連続し、白い宇宙を形成していることこそこのアルバムの最大の意義なのだと思うから。だから、例えば絶望感しか残らなかった次の「レット・イット・ビー」の抜け殻を同じ様に2枚組にしたとしても、きっと空しさしか聞こえてこないと思う。何ゆえにこの「ホワイト・アルバム」は特別な空気を放っているのだろうか。それはきっとまだ続いていた「魔法」が可能にした、ビートルズという名前に象徴される「時代の色」と「存続へのエネルギー」の結晶だから。「ザ・ビートルズ」というタイトルは、まさにその象徴である。もっとも「A Doll's House」というタイトルも考えられていたらしいが却下された。弘田三枝子の「人形の家」がヒットしたのはそれから約半年後のことである。
こうして出来上がったアルバムは、混沌とした状況を反映したサウンド、そして曲の配列がかえって功を奏し、他の誰にも出来ないポップ・ミュージックの最新型を呈示してみせた。折しもサイケデリック・ブームが下火に向かい、ポップス本来の革新性が見直された時期でもあり、ビートルズのこの試みは大いに評価された。何しろ彼等自身が「サージェント・ペパー」で築いた金字塔に悪乗りさせられた音楽シーンに真っ向からアンチ・テーゼを投げかけたのだから。なにせビートルズなんだから、音楽的に人を失意に至らせるものを作る訳がない。あのロック・マガジンの阿木譲氏をして「ダダ的な結合による音楽」と言わしめたこのアルバムの魅力に、あえて今回丸芽志悟が迫ってみようと思います。
SIDE ONE
この面はビートルズの皮肉屋的な部分が大いに開花した非常に毒の強い部分。何せジョンの3大傑作、「グラス・オニオン」、「コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロウ・ビル」、「ハピネス・イズ・ア・ウォーム・ガン」が入ってる。ビートルズ自身をまな板に上げてみせる「グラス...」、まさにロックンロールの未来系である雑種な「ハピネス...」は言うに及ばず、最も強烈なのはアメリカ人のでかい態度をあざ笑う「バンガロウ・ビル」と思うのは私だけか。何せ主人公の名前が「ビル」っすからね。窓ならぬ象と銃を武器に、おまけに母親も引き連れた彼の活躍ぶりは、ある特定の人物を思い起こさずにいられない。ポールも青盤に選ばれた代表曲「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」と「オブラディ・オブラダ」を提供してるが、前者はブライアンを倒した張本人としての自信から余裕の愛情いっぱいビーチ・ボーイズ・パロディに隠れた東側へのきつい皮肉が痛快すぎるし、無邪気なポップ・ナンバーである後者もジョンのやけくそなピアノとちょっかいに後押しされて整頓とは程遠い世界になっている。こんな1面を優しく中和してくれるのがジョージの超名曲「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」だ。この曲に客演したエリック・クラプトンのプレイは、それまである程度いい加減だったこのアルバムのセッションを引き締める役割を果たしている。なお「バック...」と、ジョンがメディテーションに熱中する女優に「心を開いて」と呼びかける「ディア・プルーデンス」の2曲は、リンゴの一時的離脱によりポールがドラムを叩いていて、これがまた味がある。しかしこの面最大の聴きものは「....ビル」と「ホワイル....」の繋ぎ、これに尽きるね。
SIDE TWO
一番曲数が多く最も毒が少ない面がここ。主にポールが大活躍していて、私も散々ピアノ練習曲にした「マーサ・マイ・ディア」、ギター練習曲にするも無理だった「ブラックバード」、「....ビル」のポール版展開というべき「ロッキー・ラックーン」、心暖まるバラード「アイ・ウィル」などを提供。ジョンはプライマル・スクリームの初期症状「アイム・ソー・タイアード」と亡き母への愛に託してヨーコへの愛を歌う「ジュリア」。ジョージの「ピッギーズ」はバロック的な曲調に1面でのジョンの毒をたっぷり盛った皮肉屋ぶりを見せつける。私が生で聴いたビートルズ・ナンバー中最も泣けたのがこれ('91年のジョージ来日公演にて) そしてリンゴまでもが、63年に作りはじめた彼らしい素朴なロック「ドント・パス・ミー・バイ」で大暴れ。ここではキーボード、バイオリン、パーカッション中心の賑やかなサウンドだが、後のジョージア・サテライツのカバーがこの曲の本質を見抜いた優れた出来となっていると思う。このアルバムを特徴づけている「繋ぎ」は、この面では「ブラックバード」と「ピッギーズ」の間で威力を発揮。同じポールの曲とは思えない衝動的な「ホワイ・ドント・ウィ・ドゥ・イット・イン・ザ・ロード」と「アイ・ウィル」を並べたのも、同じ作者の曲を並べないというポリシーに反しつつも成功である。
SIDE THREE
ビートルズのミュージシャンシップ、そしてロックンローラーたるところが最もいい形で出た第3面は、グランジ、オルタナ好きの方にも安心して勧められる。拒絶できないリフを配した「バースデイ」は、何も用意せずにスタジオに入り、途中映画を見るために退席しようがこれだけのものを一日で作れるという彼等の怪物性を物語る曲だが、皮肉屋ジョンは続く「ヤー・ブルース」でまた大暴れ。メディテーション疲れした心情をハードなブルースに乗せて綴るところなどさすがジョンで、「ロックンロール・サーカス」でのキース・リチャーズ、クラプトンとの共演版はさらに強力。一曲おいて、マハリシの講義から詞の大部分を頂いたという「エヴリバディーズ・ガット・サムシング・トゥ・ハイド・イクセプト・ミー・アンド・マイ・モンキー」(森高もカバーしてる。しかしなげータイトル)のラウドなサウンド、続く「セクシー・セディ」ではより直接的にマハリシに八当りし、アルバムのテンションをより高める。しかしこのテンションが大発火するのは続くポールの「ヘルター・スケルター」だ。グランジがなんぼのもんだ、ここでの無鉄砲ぶりはビートルズの全キャリアでも頂点に達している。およそ6分前に自然賛美もの「マザー・ネイチャーズ・サン」をものにした同じポールとは思えない、これぞ前衛。あまりにも錯乱したリンゴの「指に豆ができちまった!」という絶叫の余韻に導かれ始まるジョージの崇高な「ロング・ロング・ロング」が、スピーカーの上で振動するワイン・ボトルの怪しい響きとともに終わる瞬間の安堵感ったらない。
SIDE FOUR
最も分裂した形相を見せる第4面は、一曲を除いてジョンの土壇場となっている。このヴァージョンが「あまりにスローすぎる」と言われて泣く泣くシングル用に再録音した「レボリューション1」は、スタジオの床に寝そべって録音したボーカルがなんともやる気のないムードを醸し出している。レコードでは4分でフェイド・アウトされているが、本来はあと6分混沌とした演奏が続いたという。その混沌を取り出し、幾千のテープ・ループを重ねてさらに混沌の極みにしてしまったのが問題作「レボリューション9」。これについては、12才の誕生パーティの際に部屋を暗くして皆で聴いたという話以外しませんが、この「1」と「9」の素材を例えばダスト・ブラザーズとかに渡したらどんなものが出来るかって想像したら面白いかも。ジョンはあと第1面の皮肉屋ぶりをより穏やかに展開した「クライ・ベイビー・クライ」を提供し、ポールの「ハニー・パイ」で見事なオールド・ファッションのソロを披露。唯一ジョン不参加の「サボイ・トラッフル」は、エリック・クラプトンのチョコレート中毒を題材にしたジョージのひょうきんな面が表われ、見事なファンキー・サウンドに仕上がってる。そして「9」の喧騒を優しく包むリンゴ(作はジョン)の「グッド・ナイト」で、この一大ノー・コンセプト絵巻は幕を下ろす。
というわけで、散々語られ尽くした「ホワイト・アルバム」にあえて迫ってみました。これからという方がいましたら是非聴いて下さい。30周年記念版は限定なので、とにかくお早めにどうぞ。個人的にはミックス違いを多数含むモノ版も加えて4枚組にして、4人の写真をあしらったピクチャーCDで出してもらったらベストだったんだけどな。