10月度「ココロの1枚」
名盤をめぐるある秋の日の妄想: The Kinks
"The Kinks Are The Village Green Preservation Society"
日本盤初出:1969年3月
発売中のCD: Pye/Victor VICP-60227

ココロの1枚シリーズもいよいよ最終コーナーに突入。今回のアルバムに対しては思い入れが強いため、いつもの曲毎コメント形式をあえて避け、好評だった例の「妄想物語」形式にてお送りします。

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また、ふられちまったようだ。
全く、TVレポーターのようなタカビーな人とは長続きするわけがないし、笛の上手な謎の娘は、謎のままどこかへ消えてしまった。こんな気持ちを癒すため、僕は車を走らせている。もちろんマイカーじゃない。京都でふらっと借りたやつだ。もっとモッドな車に乗りたかったけど、しょうがないさ。今日は昔、青春の日々を過ごした滋賀の辺りを思いっきり走ってやるつもりだ。そして、こんなシチュエーションの時絶対聴きたいと思っていたアルバムをスロットに入れる。ちゃんとカーCD位装備されてるよ、頼もしい。そのアルバムは、もちろんキンクスの「ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ」。
快調に161号線を飛ばしている。右手には琵琶湖が広がり、左手には湖西線というのが走っている。この湖西線というののせいで、自分の人生はかなり変ったようだ。6才になるまですごした家が、この湖西線の建設計画の煽りを受けて取り壊され、僕と家族は守山市に引っ越すことになった。大阪や京都から、海水浴やスキーにもってこいの琵琶湖の西側に簡単に行けるようになったのは有難いけど、自然が壊されるのはたまったもんじゃない。僕らは村の緑を守るのだ。革新的なやり方より、慣れたやり方で、古き良きものに愛をそそがねば。
しかし、守山に引っ越さなかったら、僕の胸キュン感を決定づけたあのコに逢うことはなかったのだし。旅行鞄からそっと写真帳をひっぱりだして、彼女の写真に目をやる。まっすぐな目が僕を呼んでいる。ああ、懐かしい。避妊具を買って来てやるからと言われて金を貸した限り会ってないワルのウォルターが写真の中で。キンクスの前のアルバムの冒頭に出てきたような模範生のあいつ。殻に閉じ篭ったように静かだったのに、ある日いきなりパンクになってしまった通称ジョニー。みんなどうしているのだろうか。そして快調なリズムに乗せて、車は再び動き出す。古き良き蒸気機関車の最後尾だなんて、レイも憎いこと言うよね。このアルバムが出た当時は、誰もがサイケでぶっとんだ生活を指向していた。そんな中、この潔さと自然指向は全く受け入れられなかったんだってね。自分がキンクスを聴こうと決心した頃、彼等のLPは手に入りにくい状況にあって、かろうじて英国から輸入されたベスト盤を入手できたのが救いだった。しばらくしてSMSというメーカーが彼等のLPを一斉に再発売した頃には、自分はこの作品の対局であるサイケにどっぷりつかっていたんだ。結局、このアルバムに触れたのは90年代になってからだった。その年、僕は念願のキンクス来日公演を観て、老いることの無意味さを教えられていたんだ。そして、一斉に再発CDを集めたとそういうわけ。今ではもっと音質のいいリマスターCDも出てるし、新しいファンは幸せだよね。この作品に関して言えば、公式にリリースされた15曲入りアルバムのモノ・ヴァージョンと、当初発売されるはずだったものの、レイの心変わりによりお蔵入りした12曲入りアルバムのステレオ・ヴァージョンが1枚で楽しめるんだ。
車は琵琶湖大橋を渡って、懐かしい守山市に突入。琵琶湖のそばに車を止めて、しばし大空を見つめていたら、ふとどっかで見たような女の子が近寄ってきて、声をかけた。
「なぁ、何してるん? 淋しいんとちゃうん? 大空って同情するには大きすぎるんやなぁ」
その彼女は、ちょっと前まで我が家にいた自称18歳のコと同じ様に純真な目をしていたが、なにより表情がすっきりとさわやかだった。関西のコは大概そういう風に見えるのかも。
「なぁ、乗せてって。ウチも淋しいねん」
僕は彼女を助手席に乗せて、このノスタルジー紀行をより感傷的に盛り上げることにした。ちょっと走って、野州川のほとりで降りて、川辺に座って二人しばしおしゃべり。だって、運転しながらだと話に集中できないもの。あっ、逆か。
静かに流れるせせらぎの音は郷愁感いっぱいで、二人の会話にまたとないいい伴奏をつけている。「じゃ次どこへ行く?」
「動物が戯れる楽しい場所に連れてって」
この辺には、さすがに動物園はない。でも、栗東まで行けばお馬さんがいっぱいいるじゃないか。競馬用の馬だけど。栗東に向かって車を走らせていると、流れて来た曲に彼女は反応した。
「この歌、ウチが赤ちゃんの時、乳母車の中でよぅ聴いた覚えあるわ」
えっ、ってことは君が赤ちゃんの時流行ってたの? まさか、君は1968年生まれにはまず見えないよ。あっそうか。じゃ1975年生まれだ。「裏切りの街角」という、これによく似た曲が流行ってた。じゃ24歳なの? 実際もっと若く見えるよ。
「ありがとう」という代わりに彼女はこの曲のメロディを口づさんでいた。「ウチ、村の緑が恋しいねん。」えっ、守山にはまだ、村じゃないけど緑が充分に残ってるはずだけどなぁ。
「ウチなぁ、実は出が東北の方やねん。それが、父さんが出稼ぎで大阪の方に出てきてなぁ。いつの事かはもう忘れた。もう回りに誰もいんとな、ひとりやねん。今日はたまたま琵琶湖のそばにいたけど、明日は天橋立かもしれへん。」
ふむふむ。「でもなぁ、ウチほんとはスターになる夢捨ててないんやわ。東京行って、身を削ってでも出世したいねん! あんた東京から来たんやろ。だから何とかしてや!」
おいおい、スターの座って甘いもんじゃないよ。こうして彼女の話を聞いている間、車は栗東を通りすぎて希望ヶ丘へと辿り付いた。ここには馬はいないけど、自然ならいっぱいある。あっ、なんか凄い太ったネコがいるよ。なんかスター気取りで一方的に肥大したわがままなヤツみたいだな。
ああっ、これこそ忘れかけていた光景だ。この草原に友人全員を招いてみんなで写真を写し合いたいな。白髪が増えないうちに。科学者気取りで実験に精を出してる風変わりなアナベラも、ツンツンして自分以外を愛する術を知らないモニカちゃんも。みんなでいい時間を過ごして、その瞬間を形にして残しておこう!!!
僕達二人は手に手をとって想像上のワルツを踊りながら、日が暮れるまでそこにいた。ありがとう、この素敵な日に。僕が京都で車を返し、鈍行の夜行列車に飛び乗った時、彼女はまだ隣にいた。どうしてもスターになりたいのかい? じゃ、僕が芸名だけでも与えてやろう。「村野みどり」と。で、結局彼女の年齢は、聞かずじまいだ。
そう、そう、そう、これが僕の秋の暦。God Save the Village Green Preservation Society, which are the Kinks!

最後に収録曲(15曲入りヴァージョン)。「ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ」「ウォルターを覚えているかい?」「絵本」("Picture Book")「ジョニー・サンダー」「蒸気機関車の最後」「ビッグ・スカイ」「川辺にすわって」「アニマル・ファーム」「ヴィレッジ・グリーン」「スターストラック」「フェノメナル・キャット」「友人全員」「いたずらなアナベラ」「モニカ」「写しあった写真」。この物語は8割妄想2割真実です。実際の私は免許さえ持ってませんので........

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