9月の「ココロの寄せ鍋」(血染めの軟骨100%)
Throbbing Gristle "Greatest Hits"
Rough Trade RTL-20 (LP-82年3月発売)
癒しの音楽について語った直後にこれを紹介とはなんともはや。心に残るベスト(の癖して結構入手するのに手間かかる)・アルバムを月一回の割合で紹介しているこのコーナーに、遂にTGが登場である。まあ何やかんやいって自分の多感世代にTGを聴く事が出来たことは全くもって幸せな体験だったと思う。パンク以降の所謂新前衛が「オルタナティヴ」という言葉で括られていたあの頃、中学生だった自分は自然とその空気に呼ばれていったのだ。FM番組で聴いたフライング・リザーズにやられて、即座に遠くの輸入盤屋に走り、さらに妙なテープ作りに燃えて....やがてレジデンツと出会って大変な事に。もちろんロック・マガジンはしっかり読んでたし、おかげでほぶらきんもリアルタイムで体験。シャネルズ好きの彼女の気を惹くためにオールディーズのLPを集める傍らでここまで暴れるとはいかに分裂した若気の至りだったか。輸入盤屋でよく拝見したサード・アルバム"20 Jazz Funk Greats"の一見ポップ、実は毒気が効きまくったジャケのおかげでTGの存在も認識していたが、案の定関西のヒップなFM番組は彼等の曲を無視することはなかった。最も彼等の中でも聴き易い曲がよく流れていたのは言うまでもないが、中学卒業直前にPASSレコードからリリースされた"20..."の国内盤は嬉々として買いに走り、頻繁にターンテーブルに乗せたものだ。その翌年、ラフ・トレードからこの皮肉きついタイトルのベスト盤がリリースされた頃には、すっかり東京の空気にやられて全米ヒットものに改宗していたが、やっぱり買わずにいられなかった。H45時代初期、このジャケットを突きつけながら無邪気に微笑むめるめる(17才)の写真がどっかのページの壁紙に使われていたのを覚えてる人も多いと思う(わけない!)
というわけでこのTG、もともと反芸術的芸術の方面で異端な活動をしていたクーム・トランスミッションズを母体に結成され、パンク・ムーヴメントに飲み込まれて「ロック的」な活動に入っていくわけだが、さすが異端だけあって普通のロックを奏でるわけがない。例えばヴェルヴェット・アンダーグラウンドの持つあの独特のけだるい反復感。ストゥージズの狂暴性。そこにエレクトロニクス技術を用いた斬新な表現法が加わり、そしてあの時期の英国でなければなし得ない「空気」が彼等の音を独自のものにしていた。ライヴ録音とビデオのサントラから成るファースト・アルバム"Second Annual Report"('77)、各メンバーのソロを加えてより多様化した方向性を狙った"D.O.A."('78)、彼等の逆説的皮肉屋ぶりが最も顕著に現れた傑作"20 Jazz Funk Greats"('79)、そしてスタジオでのライヴを収録した"Heathen Earth"('80)という4枚の公式アルバムに加え、シングル数枚、セミ・オフィシャルなライヴ盤やカセット24本組(!)などゲリラ的戦略で数多くのアイテムをリリースしつつ、81年のアメリカ公演を最後にその幕を閉じる。
さて本作、まあ確かに「グレイテスト・ヒッツ」だけあり、彼等の代表曲がこれでもかとLP両面に敷き詰められている。問題作ファースト・アルバムからは、代表曲"Slug Bait"の内一ヴァージョンが、何故か逆回しされて収録されている。この混沌としたノイズ空間は、しかしどっちに進もうが聴き手を突き放しつつ、内包してしまうのだ。セカンド収録曲は"Hamburger Lady"、アバの曲をコラージュしたプロト・テクノ・トラック"AB/7A"、混乱のライヴの断片"Blood On The Floor"。セカンドに先駆けてシングルでリリースされた比較的ポップな"United"は、アルバムではなんと16秒に圧縮されていたが、ここではシングル・ヴァージョンで聴ける。サードからはタイトル曲と、テクノ・ディスコとして結構もてはやされた"Hot On The Heels Of Love"、そして"Six Six Sixties""What A Day"が選ばれている。残る2曲は80年暮にシングル2枚同時リリースされた4曲の内2曲"Subhuman"と"Adrenalin"。前者は相当ノイズ色が濃い曲であるが、上京してすぐ迷彩色のカバーに包まれたこのシングルを入手しためるめるは相当ショックを受け、また周りにいたある人物をSubhumanのメタファーとして怖れるという行動に出る。おかけでTGの曲も結構友達の間に広まったなぁ。ここには未収録であるB面"Something Came Over Me"は避けて通れない青春の一場面を露骨に歌った曲だったしね。後者は後にサイキックTVでハウスに深入りするジェネシス・P・オリッジの面目躍如なテクノ・ナンバーである。これのB面"Distant Dreams"もミニマルで美しい曲だったな。
CD時代に入ると、米ミュート・レーベルが一斉にオリジナル・アルバムをリイシューし始め、日本でも91年、アルファからこのベスト盤とBOXセットがCDでリリースされた。しかし時代が悪かったのか、いまいち盛り上がらずじまいで、現在これらリイシュー盤は極めて入手しづらい。この世紀末、インダストリアル(元を正せば彼等のレーベルの名前ではないか!)、ノイズ、テクノ、ローファイ、モンドといった先鋭音楽の動きを語る時、決して避けて通れないグループだけに、この状況は残念である。むしろ一ポップ・グループとして彼等を語るという逆説的に愉快犯的行為こそ、求められて然るべきと思うんだが........最後に、このベスト盤はマーティン・デニーに捧げられており、ジャケもベタなオマージュとなっている。

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