棚の奥Revisited (3/7)

ルル網ネタ館の根底から掘り起こした、知られざるJ-pop名盤に光を当てます。

その11千恵美/C
ビクター/1995年10月発売/わけあり盤(支給)~廃盤セールにて購入
前回の村田彰子に続いて、早すぎたデーバ、いやディーヴァ系の一翼を担った名花のアルバムを紹介させて頂く。
と言ってもこのアルバム、決して棚の奥で眠っているCDではない。ただこういう機会でないと語れないというわけで、あえて引っ張り出させて頂いた。最初勤務先(当時)で頂いたのは、ジャケットも詳細情報も皆無なプロモ盤であり、その段階でかなり愛聴していたし、98年の廃盤セールに出品された時は、供養のため一枚購入させていただいた。かなり愛着のあるアルバムである。
一時期、親戚の女の子がR&B系ヴォーカリストを志向して各方面に売り込みをしまくっていて、自分は曲を書いたりトラックを作ったりしてバックアップを惜しまなかったので、必然的にこの手のヴォーカリストの動向が気になっていたのである。やがて時が過ぎて彼女は結婚し、音楽シーンは何の因果かR&B系ヴォーカリストで溢れ返ることとなってしまった。その第一次全盛期は97~98年であろうか、SILVAとかSugar Soulが絶大な人気を得ていた頃であるが。やがて宇多田ヒカルが登場し、俄R&Bフィーリングを持った「歌姫」の渦がより拡大することになるのだが、個人的には宇多田は全く別ものと考えていますんで。
今、ブーム突入以前の和製ソウル・シンガー・ムーヴメントを振り返ってみると、まず圧倒的にしなやかという印象がある。ブーム以後の人達に比べると猥雑感に欠ける分、よりスマートで、ただ単に歌に対する愛情が第一なんだなという。大らかな人柄がそのままダイナミックな歌唱となって現れているのである。だからこそ、やわなガールポップに飽きた者達のハートをとらえ損ねたのかもしれないな。この千恵美が結局その罠にはまって大成できなかったのは、本当に残念な話である。
オープニングを飾るのは当時サンディ・リードが歌ってヒットした「スウィート・ラヴ」のカヴァーだが、この曲はむしろ添え物という感じで、残る8曲が主にSMAP周りでよく名前を目にした長岡成頁、Jimmy Johnson等、そして自らの手によるオリジナルである。真骨頂というべき伸びやかかつパワフルな歌声、時に超人的な高音へと飛躍する圧倒的なヴォーカル・ワーク。ただただ聴き惚れるしかない。これがガールポップの主流になり損ねたのは今思えば仕方ないけど、しなやかな女性歌手の割合を増加する手助けになってほしかったと悔やむばかりである。
このアルバムのあと、シングル2枚を経てキューン・ソニーに移籍、しらさやえみ名義で更に優れた出来のシングルを2枚リリースした。現在もライヴを中心に勢力的な活動を展開する傍ら、一昨年発売された秀逸な企画もの『ミュージック・フォー・アトム・エイジ』に参加するなどレコーディング活動も続行している。公式サイトはこちら
(初出: 2005年2月25日)

その12及川ひろみ/不安と期待
BMGビクター/1994年12月発売/わけあり盤(支給)
懲りずにガールポップ。つーかその方が語ってて楽しいし....ガールポップ以外のものがいつ出てくるか、それは棚の奥のどこにあるかにかかってるわけです。もち語りたい作品が皆無というわけではありませんので....
今日の一枚は、発売が94年ということで微妙に王道で微妙に邪道という感じの時期の作品。一般的には丁度小室天下時代の入り口という感じだったし、個人的にも昭和歌謡曲の神髄にはまりつつ、ガールポップの探求を熱心に続けていたのだが、さすがにこの辺になるとおいしい新人もなかなか出なくなったなぁという印象で。この及川ひろみも、職場の環境上(ちなみにBMGが独自ディストリビュート網に乗り始めたのが丁度この時期で、かつて同じ職場で共闘した同志がブツを送ってくるということはよくあった)プロモ盤を支給して頂いて、ルックスに似合わずなかなかユニークな声をしてるなという印象はあったものの、長らく聴き続けるということはなかった。言わば大人のガールポップという感じですな。歌詞の内容ひとつとっても、「一歩間違えればアイドル」の世界から遥かに成熟した価値観が支配しているし、ハスキーなヴォーカルも耳をさわやかにくすぐるタイプではない。かといって、今ならAORと呼んで重宝するタイプの音ではもちろんなく、0年代中期ならではの罠にはまってしまったという気がする。シングル曲「切れたブレス」はなぜか「怪傑ダチョウ三銃士」のOPテーマに使われるというよく解らないタイアップで、これも仕方ないだろう。蛇足だがこの曲「コラムス95」のBGMにちょっと似てる部分がある。
全体的にはその後の中森明菜、ただし大幅に灰汁抜きという感触のある作品集である。なお作詞とコーラスで、97年にワーナーからなかなかの佳作『いろは』をリリースしている海部希有子が参加している。また一つ棚の奥へのリンクが。制作総指揮は蛎崎氏(=元ザ・ボルテージの橘洋介)。
(初出: 2005年2月27日)

その13プチ・プチ・エアーパッキン
ノッカーズ /2000年3月発売/新品購入
初めてバンドものがここに登場。ZONEのプレデビュー盤「Believe In Love」をリリースしたソニーのノッカーズ・レーベルは、佐藤ひろこの再浮上もあって最近俄に注目を浴びているようだが、この一枚も発売当時気になってピックアップしたもの。何せ4曲で1200円というお試し価格は、このレーベルの良心みたいなものだからね。
まずこのジャケットの女の子。いかにもパラノっぽくて繊細なポップ・ミュージックを奏でそうな気がして。そしてこのグループ名。海外ではその手の事情でリリプットとかパンソニックとか改名させられたグループが存在したけど、その線上にあるやばいグループ名(はい、TMですね)で、将来出世したらこれはきっとレア盤になるだろうなという期待もこめて買ったんです。
そしたら一曲目「ねむたい」からして期待を鮮やかに裏切る衝撃。ハード&ヘヴィなバンド・サウンドに乗って、やる気のない女の子ヴォーカル。内省的な宅録少女というイメージが粉砕されると同時に、並じゃないなという期待感が芽生え、間奏で登場する三味線(!)でさらに呆気にとられる。こんなロックがあっていいのだろうか? 焦点がはっきりしない分面白い、刺激的だ。
この一曲の衝撃で終わらないところがなお凄くて、ヴォーカルの女の子(三味線とキーボードも担当)のフレキシブルな感性が全体を貫く。意外と身のこなしが軽いポップな曲に毒がてんこ盛りで、どうだろう、aikoと倉橋ヨエコを交互にWATSUしてるうちに軽い目眩に陥ったような錯覚とでもしておこうか。サウンド的仕掛けもよく知ってる人達という気が。大阪を本拠地としていた4人組。この後自主制作でシングルを一枚リリースして、2002年解散。
(初出: 2005年3月2日)

その14清水綾子/ハーフムーンの勇気
インビテーション (ビクター)/1993年12月発売/わけあり盤(支給)
一昨年の衆議院選挙で千葉県第12区より出馬し見事当選した青木愛議員は、「トゥナイト2」のレポーターを務めていたのはあまりにも有名にせよ、歌手として残した唯一のアルバム『何処へゆくの』(91年)は個人的に90年代の女性ヴォーカル・アルバム中最も好きな一枚と言ってもよく、棚の奥に隠すなんて勿体ない。率直な歌心と自然に対する思いやりに溢れた、大らかな人格そのものと言える作品で、自ら紡ぎだすメロディのセンスもかなりの高レベルなのである。ただ、2枚目のシングルで「トゥナイト2」のテーマ曲となり、有線のチャートには1年近くランクされていたと記憶する「さよならを越えて」が三木たかし作曲による歌謡曲寄りの作品だったことも手伝って、彼女のCDが何故か「演歌」のジャンルに分類されるという暴挙をよく店で目にした。後に出したシングルは「ラジオ深夜便」の「新ラジオ歌謡」だったし、とどのつまり「ニューアダルトミュージック」と言った方が聞こえはいいと思うのだが。今Rice Musicレーベルが扱ってるような一連の作品と同一線上にあるやつ。
で、今回の本題である清水綾子は、歌手活動初期そんな「ニューアダルトミュージック」っぽい、ある意味下世話と呼ばれてもおかしくない曲を主に歌っていた人である。確か一番ヒットした「旅愁人」が何かの旅番組のタイアップで堀内孝雄作曲だったと記憶しているから仕方ないか。と思えば突如ayako名義でビーイング制作によるイケイケなポップス(作詞が高樹沙耶!)を発表したり、「みんなのうた」で曲が流れたり、実にとらえどころのない歌手活動をしていたシンガーだった。このアルバムではさらに大変身、大人の女性に共感を得そうなナチュラルなポップス路線へと転換しており、一曲目「青空」はまるで今井美樹みたいだ。全体的にはアコースティック中心の音作りでナチュラルなイメージをさらに強調していて、そんな音に負けずに美味しい彼女のヴォーカルを引き立てている。器用なシンガーは何をやっても上手くいくんだなと、そういう感じだ(但し商業的には....)。安部恭弘、木戸やすひろなどシティ・ポップス派の名人が提供した曲が光るが、「神田川」へのアンサー・ソングみたいな「音楽室」が飾らない魅力がよく表れた佳曲で個人的にはベスト。
ある意味ビクター女性歌手の宿命のようなこの「どっちつかず」路線は後に夏川りみに継承されるが、ヒットが出ればそんな幻影もお構いなしである。或いは島谷ひとみも90年代ビクター歌手であればこんな感じで歌手生活を全うしたのかもしれないな。
(初出: 2005年3月4日)

その15アチャコ一座/花が咲く
フェイズ (プライエイド)/2000年5月発売/わけあり盤(支給)
1996年以前にもらったわけあり盤は主にレコード会社絡みですが、その後、現在の奉仕先でもちょくちょく余ったわけあり盤を分けて頂く事も多く(ちなみにここ2、3年はやはり苦しいせいか、殆ど頂いていない)、そそったものの結局は棚の奥という作品も少なくはない。このアルバムは2000年の作品で、「あほからのメッセージ」という帯のキャッチ・コピーに惹かれたものの、いつのまにか放置されてしまっていた。
しかし2年程経って色々と棚の奥を漁っていた時、ふと目に留まった収録曲のタイトル「コントロールやめてくれ」。折しもCCCD渦が拡大していた最中で、これはもしかしたらアンセムに成り得る曲では? 興味津々で聴いてみた。おおっ、これはなかなかいけるぞ。オープニングの「プカプカプー」からしてオーラ出まくり。ファンク、沖縄民謡、レゲエ等が渾然一体となり、バカという器の中で撹拌されている。その中心を貫くのは、あくなきナチュラル志向。歌詞を読むと一目瞭然、この混沌とした時代を生き抜く為の自己の解放を、あらゆる側面から訴えかける。コミューン乗りのナチュラル・ハイな演奏がこのメッセージをさらに増幅。ブックレット裏に載せられた写真とメッセージがちょっとやばいものを想起させるが、この音楽の精神性が託されたものと考えれば納得である。
問題の「コントロールやめてくれ」は強力なファンク・ビートにのせて社会の操り人形となるなと警告を投げかける作品だが、もちろん「コントロール=規制」の意味でも堂々と通用する。大音量でこの曲に身を任せながら、あらゆる「機構の縛り」に中指を。激しいハード・ロックにタブラが絡み、脱力コーラスと共に盛り上がる「ランランあなた」など、他にも佳曲揃い。そして結構使える度が高い。ちなみに女性ヴォーカルではないです(このシリーズでは初めてということだな)。
(初出: 2005年3月6日)

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