棚の奥Revisited (2/7)

ルル網ネタ館の根底から掘り起こした、知られざるJ-pop名盤に光を当てます。

その6間美穂/流星
Boon Records/1997年12月発売/わけあり盤(支給)
その5でちょっと名前が出た五味美保は、デビュー以来16年間その驚異的な持久力とファン想いの性格で決して活動ペースを減速することなく、結果的に自分もずっとその活動を見守り続けずにいられないという稀有な存在であるが、90年代末期からは他のアーティストのバックアップも積極的に行なうようになっていった。3つのメジャー・レーベルを転々としたあと、事務所主導で設立された準インディ・レーベル(販売はクラウン)、Boon Recordsに落ち着き、アルバムとシングルを1枚ずつリリースする一方、そこに残された幾つかの他のシンガーの作品では、裏方としてさり気なく自己主張する彼女の姿を確認することができるが、97年リリースされたこの間美穂のアルバムもそんな一枚。19才のシンガー・ソングライターであるが、折しも時代はダンス・ポップ系隆盛で、いよいよデーバ全盛期突入寸前という勢い。彼女のようなナチュラル派が認められる余地はなかった。残念である。
今聴き返してみると、最近のRie FuやTiAのようなインターナショナル感覚溢れるナチュラル・ガールポップに開眼した耳には幾分古臭く聞こえるのは仕方ないが、本来のガールポップの基本からすればこれは王道だ。サウンドも曲作りもひねりがなくて、極めてまっすぐ。歌詞の世界も程よくリリカルで程よく日常的。押し付けがましさがない分最近の路上派とは別物として捉える事ができる。ヴォーカル的には谷村有美をちょっと渋くしたような印象で、19歳にしてはかなり出来上がっているという雰囲気。所々で絡んでくる五味美保特有のコーラスがいい感じで角の丸さを演出してくれる。唯一のピアノ弾き語り曲「空色のピアノ」は素直な本心が現れた佳曲。
ちなみに97年といえばルル網が始まった年であり、個人的に超重要な曲の一つである松たか子の「明日、春が来たら」がヒットした年である。
(初出: 2005年2月13日)

その7世亜美/生まれたての贈り物
1994年4月発売/中古購入
このシリーズ始めてから、これに触れてるうちにアレにも触れなきゃと、棚の奥を舞台に考察パワーが気まぐれにスパークしてるわけですが、時に「ある日の編集画面からの帰還」が邪魔したりすると余計焦ってしまいます。で、急遽このアルバムを引っぱり出してしまいました。
このアルバムに出会ったのは2003年8月の関西旅行の時、確か心斎橋のブックオフで孤高のオーラを放ってたので救済してあげました。確か100円だったかな。その時は購入記に「謎」とだけ書いてしばらく放置しておきました。
しかし翌年4月某日に突然、複数のIPからこの歌手名とアルバム名でその購入記にサーチが的中。一体何事か? と思い急遽アルバムを引っぱり出して聴いたわけです。一体何が起こったのかは未だに謎でありますが、アルバムを聴いても余計謎が深まるばかりで。もちろん94年の作品故、ネット上の情報なんてうち以外ありません。某ディレクトリにこのアーティストの項目が出来ていたものの、内容が皆無。もしかしたらそれが原因でサーチされていたのかもしれませんが。
まぁとにかくこの歌手とアルバムについてのサーチには、たまにではありますが未だに出くわします。最近では一昨日。自分も何故なのか本当に知りたいわけです。中古ショップの偏屈な棚で死んでる位なら誰かに救済された方がましでしょう?
ジャケの作りもいかにも自主制作然としたこのアルバムは、全曲世亜美自身による作詞・作曲。例によってサウンドは工夫ない打ち込みが中心ですが、彼女の歌声から何とか盛り上がりのレベルを高めようという様子が伝わってきます。ただいかんせん内容的には凡庸なラヴ・ソングが中心なので、感嘆ポイントもそんなにないと思ったら、一曲だけ傑出した曲がある! それもネタ的に! 4曲目に収録されている「湘南GAL」。いかにもなバブリー歌詞を適切なイケイケ曲調にはめ込んだトホホ世界は、決してメジャーのフィールドで味わえるものではありません。「おしくらまんじゅうのビーチでは、ハイレグ・ワンレンは当然よ」(J団体許諾シールがないので堂々といんようさせて頂きました!)ですよヒヒヒ! この曲の延長として聴くと、他のどうってことない曲さえ結構なオーラを放ってるように聴こえますが、確かに昨今のあいのり系ソングで無味乾燥な味付けされたものを聴かされるよりは、面白く聴けるだけ上等です。
一体何者なのだ? 複数の者に情報サーチさせる程無差別に音盤を蒔けるような境遇にある者、即ち信仰により動かされている人格なのか? いや、この歌詞からは想像できない。最後のタイトル曲は何となくそれっぽさを匂わせるけど、ネタ度の高い表現が多いから一概に決めつけられない。いずれにせよ謎が深まります。こういうのこそ「棚の奥」の醍醐味です。マイナー万歳!
(初出: 2005年2月16日)

その8明日香優子/スクール・デイズ
キング [自主制作]/1991年発売/中古購入
またも自主制作アンノウンズ。これは全くと言っていいほど謎な一枚。ブックレットにも歌詞以外手がかりが全くなく、唯一明らかなのは全曲作詞・作曲・編曲が本人によるということである。うーむ。一体何者なのか? ルックス的にはどこにでもいそうなコという感じだが、特にブックレット表紙裏の写真を見ると一連のキング自主制作歌謡歌手に通じるオーラが伝わってきて大変である......きっと金を出した人が凄い人なんだろうなぁ.....
そういうのは別にして音を聴くと、やっぱ万人に向いて発せられた音ではないというのがよく解る。本人アレンジと言っても予想した通り最低限の打ち込みによるサウンドだし、デモ・テープ特有の深いエコーができあがってないヴォーカルを覆い隠し輪郭を曖昧にする。本当に作品を世に残したい乙女であればもっと大胆な事をするだろうが、かえってこの「曖昧な剥き出し感」が特異なフツーっぽさを醸し出していて新鮮である。「Teen age girl」での極端におかしなバランスとか、随所に聴かれるクォンタイズ失敗のようなフレーズなど、むしろ「研かれた形」に仕上がったらきっと萎えるだろうなと思わせるものがある。いずれにせよ、定価が明記されていたということは、単なる「卒業記念」とかそんなニュアンスの作品ではないということを思い知らされ、ますます恐れ入ります。
(初出: 2005年2月18日)

その9sawori/sucre
C2HR (コロムビア)/1998年6月発売/わけあり盤(支給)
大成功しているジャンルとは言い難いのだが、確かに一筋存在していると言える「モデル系」という系譜がある。誰を代表として挙げればいいのかもよく解らないが、「モデル系」のサウンドイメージって実に明白だ。その時々の「先端かつ気持いい音」に「適度にアンニュイな娘の声」が乗っかるというもの。その狙いが的中してとんでもない名盤が生まれる事もあるが、大概稀である。所詮時代の鏡でしかないのだから。まぁそんなわけで、レディメイド系及びその傍流に位置する「モデル系」のアルバムって何か近寄り難いという気がする。
このフランス帰りのモデルさん、サヲリのアルバムは98年の制作だから、そんな狙いにまんまとはまってしまいがちと思わせるのだがそうでもない。ちゃんとキャラが立っていつつもポップ歌手としてある程度の水準をキープしている。サウンド面でのプロデュースはテクノ・ユニットの方のマスターマインド(同名のメタル・バンドも存在するので注意)が担当。CMソング界での活躍が目立つ彼等らしく、ギミックよりも心地良さを基調にした音で彼女をバックアップ(作者には96年のアルバム『Damage』でここに登場予定の岡崎葉の名も)。彼女のヴォーカルは適度にアンニュイではあるものの、大胆にいじられることもなくサウンドの一部として機能している。「パリかぶれ」なんてモロな曲もあるものの、全体が彼女の生活を切り取った絵のように天然で好印象。フレンチに憧れるアイドルがこれをやったら失敗するのである(誰とは言わないが...)。
(初出: 2005年2月20日)

その10村田彰子/Find Out
イースタンゲイル/1996年2月発売/わけあり盤(支給)
90年代前半は何げに新興レコード会社の林立期だったが、今作を発売したイースタンゲイルは、ビクター、テイチクでディレクターとして活躍していた東元晃氏が音頭をとって1994年発足したレーベル(販売はビクター)である。まぁ、現場にいたので色々と訳ありな話を知っているのだが、フジテレビの深夜番組のシンボルキャラ「ストレイシープ」の関連商品を発売してヒットさせた実績をある企画のタイアップに注ぎ込んで勝負をかけた途端、その企画があまりにも不道徳ということで立ち消えになり、巻き添えを食って消滅してしまったという悲劇のレコード会社である。もっともそのちょっと前、ここが出した某アルバムが某MM誌で(10点満点)マイナス20点という評価(ちなみにレビュアーはマイミクのマイミクのマイミクであるあの人)を得てしまったのも、結構影響していると思うんであるが。ちなみに現在密かにAORとして再評価されているというボサノバ・カサノバもこのレコード会社から出ていた。
さてこの村田彰子は早すぎたデーバ系を狙った一人という感じだが、見た目には普通のガールポップ・シンガーという感じだし、詩の内容とか「ビジネスよりもI Love You」という曲名からも解るように、日常感を大切にするというOL系ガールポップの基本から全くずれてはいない。猥雑感が全くないところも全然R&Bっぽくないのである。どこが特異かというと、そんなイメージを骨太なヴォーカルで伝えてくれるところ。R&Bの基本はパワーであるという理論が納得できないことも多い昨今のシンガーよりも、破壊力では優っているのではと思える部分もあり、小奇麗にまとまったサウンドも含めて、かえって今聴くと新鮮な感じである。力み過ぎではあってもそんなに押し付けがましくはない。そう、考えてみれば最近のR&B系K-POPってこんな感じだから愛しさを感じるんだろうな。
(初出: 2005年2月23日)

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