5月の「ココロの寄せ鍋」(ダシ:鷲の爪と油過多)
Steve Miller Band
"Greatest Hits 1976-1986
A Decade of American Music"
Mercury [GER] 830 978-2 (87年発売)
日本では全くと言ってもいいほど人気が沸騰しないスティーヴ・ミラー。本人も日本の取材に全く乗り気を示さないことは一部で有名で、頑固なほどの日本避けぶりはレーベル・メイトだったボブ・シーガーと並ぶ鉄壁。82年に全米でNo.1、他の諸国でも大ヒットしたシングル「アブラカダブラ」のヒットを祝して、その年の暮れにビルボード誌に載った広告を未だによく覚えている。そこには世界各国でのその曲の最高順位が書いてあって、10より若い数字がずらーっと並んでいたんだけど、Japanの文字は発見できなかった。オリコンのチャートでは66位までしか上がっていなかったのだ。だからスティーヴの日本に対するイメージって相当イヤなものなのかも。そこがいいのよっていう日本のファンも相当数いるんだけど、グレイトフル・デッド亡き今、未だ見ぬアメリカン・ロックの大物として、一度はやって来てほしいものである。それにサンタナがあれだけめちゃくちゃ売れたわけだから、「シスコの顔役」仲間としてこの人にはまだまだヒットを放つ力残ってるはずだしね。ちなみに現在は何度目かの長い沈黙期に入っている。ポール・マッカートニーのアルバム「フレイミング・パイ」で共作を3曲発表し、収録漏れしたものをスティーヴの次のアルバムに収録するって言ってから3年経過してるし、自身のアルバムは93年の「遥かなる河」が最新作だし。考えてみればその時はサンタナと同じポリドールに在籍していたんだっけ。
そして私のスティーヴとの付き合いもかなり長い。何ったって、最新アルバムをリアル・タイムで買い続けた最長記録保持アーティストは何を隠そうこの人である。クイーンやポール・マッカ−トニ−だって付き合い古いけど、途中飛ばしたアルバムもあるし、ストーンズやプリンスのリアルタイム買い続けもスティーヴより後で始まった。リアルタイムで入手した彼の最初のアルバムは、77年の「ペガサスの祈り」だったのだ。その前作「鷲の爪」が思った以上の大ヒットとなったため、当初の予定からなかり遅れて発売されたアルバムだったが、やはりシングル・ヒット連発で、きっとそれに影響されて買ったんじゃないかなぁ。うぶな関西小学生だわ。そのアルバムについて語ったところで、本題に移りましょう。スティーヴのベスト盤は、73年「ジョーカー」でブレイクする前の7枚のアルバムから抜粋した「アンソロジー」、そして続く3枚のアルバムから大ヒット曲を厳選した「グレイテスト・ヒッツ1973〜1978」(これは唯一日本盤で手に入るCDでもある)が広く出回っているが、ここで選んだのは入手が困難にも関わらず結構おいしい内容のドイツ盤ベスト・アルバム。丁度CD派に移行した頃、タイミングよく見つけたもので、結局長い間お世話になり続けているアルバム。「ジョーカー」こそ入っていないものの、彼の一番コマーシャルかつ脂の乗った時期のヒットを手軽に楽しめるという意味で貴重なコンピレーションだ。
まずは76年発表されたアルバム「鷲の爪」。前作「ジョーカー」から3年という、当時としてはかなり長いインターバルをおいて発表されたもの。3年たって「復活作」とは昨今のシーンから想像できないものだな。ヒット・シングル曲
「フライ・ライク・アン・イーグル」
「ロックン・ミー」
「テイク・ザ・マネー・アンド・ラン」
、「フライ....」のイントロ的作品
「スペース・イントロ」
と渋いブルース・ナンバー
「マーキュリー・ブルース」
の5曲がここに収録されている。「スペース....」から「フライ.....」と繋がる部分でのシンセの使用がかなり大胆だが、さすがサイケ時代出身の彼の事、新しい玩具と戯れる子供のようにのびのびとシンセを取り入れて、プログレとひと味違うサウンド空間を編み出している感じだ。「フライ....」は90年代シールがカバーしたことで一躍再注目され、日本でもスティーヴのオリジナル盤がクラブ・ピープルの間で熱い注目を浴びたのは記憶に新しいところ。「ロックン・ミー」も考えてみればクラブ受けするグルーヴだし、絶対に見過ごしてはならない作品でありますね。
続いて件の「ペガサスの祈り」、前作の成功が熱い内に制作され、さらにポップ度を増したサウンドが楽しめるアルバム。シングル・ヒットした
「ジェット・エアライナー」
(サンスト・デモテープ特集にこの曲をキュートなテクノにカバーして応募した女の子がいたなぁ。教授に渋い選曲と言われたてたっけ)と
「スイングタウン」
の2曲がここに収録。日本独自のシングル・カットとして結構ラジオ・ヒットした「冬将軍」ってのもあるんだけど、ドイツのリスナーにとってはどうってことない曲なんだろうな。なお日本独自のシングル・カットといえば、その次に発売されたベスト盤「グレイテスト・ヒッツ1973〜1978」から、元々は「鷲の爪」に入っていた「星空のセレナーデ」が切られてるのも興味深い。
この後、4年の沈黙を経て81年に発表したアルバム「愛の神話」は、A面にこじんまりと且つポップにまとまった曲を4曲、B面に超大作「裸の街」を収録していたが、コマーシャル度という点では堂々のカムバック作にはならなかった。しかしなんとこの半年後には次のアルバムがリリースされてしまったんだから何と言うべきか....。そのアルバムが、大ヒットしたタイトル曲を生んだあの
「アブラカダブラ」
である。殆どの曲をバンドのドラマーであるゲイリー・マラバーがスティーヴ以外のメンバーと共作した大ポップ・アルバム。テープ・スピードを多少速めてフェイド・アウトを早めにしたこのシングル・ヴァージョンは、全米チャートでシカゴの「素直になれなくて」と死闘を繰り広げ、奪われた一位を2週後に取り返すという偉業をやってのけたが、ここにはそのヴァージョンが収録されているのが嬉しい。
82年の暮れにはライヴ・アルバムをリリースして、かつての名曲「アメリカ万歳」を再びシングル・カットしたが、ここには未収録。続いて84年にリリースされたアルバム
「イタリアン・Xレイズ」
はかなりの問題作であった。かつて「鷲の爪」でシンセに対してとった大胆なアプローチを、ここではサンプラーを始めとする80年代最新型のサウンド作りに対して大いに活用。新しい物好きのスティーヴの精神は発揮されたものの、ブルース、ロック的要素が皆無であることも手伝って成功しているとは言い難い。今作に非常に性格が似ているニール・ヤングの「トランス」だって一部で熱狂的な高評価を受けているのに、このアルバムがその栄光を被るのは無理そうだなぁ。そんなアルバムからこのベストには6曲も選曲されている。シングル・カットされた
「シャングリラ」「ボンゴ・ボンゴ」
とタイトル曲はいずれもトップ40に入らなかったし、あと地味目の曲2曲
「アウト・オブ・ザ・ナイト」
と
「フー・ドゥ・ユー・ラヴ」
、いずれも打ち込みドラムのサウンドがいかにもMTV時代って感じでアレだな。もう一つはキーボード奏者のバイロン・オールレッドによるニューエイジっぽいインスト
「ハーモニー・オブ・ザ・スフィアーズ」
だし。でも少なくとも「ボンゴ・ボンゴ」のビデオクリップは大好きであります。まじで最高。あと、このベストは「1976-1986」となっているのに、86年に発表されたグループ結成20周年記念アルバム、B面で古いブルースのカバーをねっとり展開し、A面からシングル・カットした「愛と欲望の世界」にてソロで悪イメージを植え付け始める前のケニー・Gが客演したことで知られる「リヴィング・イン・ザ・20th・センチュリー」から一曲も選ばれていないのは不思議。
まぁ、そういうわけで、ヒット・アーティストとしてのスティーヴを味わうには充分な内容の一枚なのは確かです。でも本当はもっと濃いんだよね。そのためにもBOXセットを是非....といいつつ、77年以来全アルバムをリアル・タイムで買って来たファンの自分が、そのBOX買ってないっつーのはなぁ。アートワーク的にやっつけ仕事っぽい、タイトルからして「BOX SET」だしなぁ。なにはともあれ、藤真利子の「アブラカダブラ」CD化に便乗して、ここでスティーヴの事を語れただけでも満足感いっぱい。じゃ、来週はまたルルルル3枚。もちトップはアレ。まだ出てないけど。
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