音楽よもやま話拾い集め(ミュージック・マシーンの巻)
(初出 1998/10/1、「Spinning Spinning Spinning」。2000/7/8大幅に加筆)
98年9月イギリスで発売されたボールルームの「Preparing For The Millennium」。これは絶対マストものである。ボールルームというUKロック・バンドも最近登場したが、このCDの主役はあのカート・ベッチャーがミレニウムを結成する前に作っていた同名の幻のグループで、公式にはシングル1枚(そのタイトルは、コーナーのタイトルとして借用させて頂いた"Spinning Spinning Spinning")を残したのみだったが、アルバム用として録音していたマテリアル幾つかは、後にサジタリアスやミレニウムのアルバムに流用されて発表された。去年サンデイズドから出たサジタリアスの再発CDにも、ボールルームのアルバム用作品"Love's Fatal Way"が追加されファンを狂喜させた。そんな彼等の未発表アルバムを中心とした貴重なマテリアルが遂にベールを脱いだのだ。
そのボールルームと並んで、ミレニウムの偉大なる土台を作り上げたグループが、今回取り上げるミュージック・マシーン。1966年、屈折した攻撃性を秘めたガレージ・クラシック"Talk Talk"で颯爽と世に出た彼等は、リーダー、ショーン・ボニウェルの卓越したソング・ライティングと、黒づくめのコスチュームで一躍カルト・ステイタスを確立したが、その翌年早くも分裂。リズム隊を形成していたダグ・ローズ(key)、ロン・エドガー(ds)とキース・オルセン(b)の3人は、かねてから交流のあったカートと合流し、ミレニウムの結成に参加する。特にあの素晴しいハーモニーを支える力としてダグとロンの二人は大活躍、「ビギン」の1曲目「プレリュード」の重厚なサウンドはこの二人が全ての楽器を演奏して作り上げたものだった。ロンのドラムと琴が大バトルを繰り広げる夢幻絵巻"Karmic Dream Sequence"も忘れられない。陰のメンバーとしてプロデュース面で援助したキースは、70年代フリートウッド・マック、ホワイトスネイク、ハートらを手がけ大ヒット・プロデューサー道を爆走する。しかし、何といってもリーダー・ショーンあってこそのミュージック・マシーンなのだ。72年にオリジナル「Nuggets」が出たとき"Talk Talk"が選ばれなかったことを懺悔するように、今回のCD BOX版でDisc 2のオープニングを飾るというタイムリー(?)な話題もあり、今回はメンバー・チェンジ後も含む彼等の作品群にぐーっと迫ってみたいと思います。
Brief Notes about the Group:
RCAから3枚のアルバムを発売していたフォーク・グループ、ウェイフェアラーズのメンバーだったショーン・ボニウェルは、フォークの反体制モードに魅せられる傍ら、その「みんな仲間だ」的姿勢に違和感を感じ始め、ディランのエレキ化にも触発されて、自らのロック・バンド結成へと着手する。フォーク時代からの仲間だったキースとロンとの3人にて、ラガマフィンズとしてスタート。この時残されたデモ4曲が2000年遂にリリースされた"Ignition"に収録されている。やがてアソシエイションのレコードでもプレイしていたダグが加わり、さらにリード・ギター担当としてマーク・ランドンが加わり5人編成となった彼等は、ショーンのオリジナル曲に於ける神秘的イメージを強調するために、全身黒ずくめというコスチュームに身を包む。そのアイディアをショーンに助言したのは、恐怖映画からヒントを得たというカート・ベッチャーその人だった。カートは以前のグループ、ゴールドブライアーズの活動後期にやはりポップな方向に向かうため、ドラマーとしてロンを雇い入れていたのだ。こうして1966年、オリジナル・サウンド・レーベルと契約し、シングル"Talk Talk"でデビュー。同社にシングル4枚とLP1枚を残してワーナーに移籍した頃、ショーン以外のメンバーが総入れ替えとなる。ワーナーでは同じくシングル4枚とLP1枚をリリースしたが、ヒットには結び付かず。ベルにさらにシングル1枚を残した後、グループは自然消滅に至る。分裂後ショーンはキャピトルから内省的ソロ・アルバム"Close"('69年)をリリース、その後はドロップ・アウトして宗教に入り込むが、近年ミュージック・マシーンの音源再発に関して積極的に協力、自伝まで発売と精力的に活動をしている。
LP's
"TURN ON THE MUSIC MACHINE" (Original Sound, 1966)
Talk Talk;Trouble;Cherry, Cherry;Taxman;Some Other Drum;Masculine Intuition;The People In Me;See See Rider;Wrong;96 Tears;Come On In;Hey Joe.
1分56秒の間にめいっぱいのテンションと怒りを凝縮した大名曲"Talk Talk"がビルボード15位と大ヒット、その成功を受けて急遽作られたファースト・アルバム。内容はショーンのオリジナル7曲とカバー5曲。オリジナルは何れも文句が付け難い曲揃い。66年のガレージ・パンク・ムーヴメントにありながら、単純な反抗モードには終わっていない奥の深い曲作りとサウンドは他と一線を隠している。フォークの反体制とソウルの歌心が、どの曲にも効果的にブレンドされているのだ。そのくせしてオルガンとファズ・ギターが、サイケ的な威嚇色を醸し出しているのも素晴しい。唯一のバラードである"Some Other Drum"も好作品。この中からは"The People In Me"がシングル・カットされたが、LAの小ラジオ局に独占放送権を与えるというプロモーションで大コケしてしまった。一方カバー曲5曲に関しては、少しでも付き合い易くするためのやっつけ仕事という感じがまぬがれぬ。ラストの"Hey Joe"のスロー・ヴァージョンはいいんだけど。全曲をショーンの先鋭的なオリジナル曲で固めてしまうと、当時(「ペット・サウンズ」を一般大衆が拒否した66年!)としては相当危険なものになってしまうとプロデューサーが判断したのは間違いない。実際ショーンはこの時期優れた未発表オリジナルを多数書いていて、その内2曲は97年サンデイズドからシングル発売されたが、それを聴く限りはプロデューサーの判断も仕方ないかなと思う。それ程凄いのだ。このシングル曲は他の未発表曲の数々と共に"Ignition"で聴けるようになった。アルバム自体に話を戻すと、この録音はオリジナル・サウンドのポール・バフ(ザッパとの仕事で有名)が考案した10トラックのテレコで録音されており、細部まで行き届いたサウンド作りが楽しめる。キースにとっても、ミレニウムの仕事上大いに参考になったに違いない。ただ、ステレオLPのマスターには必要以上にエコーがかけられており耳障りである。のちにライノから出たベスト・アルバムには、オリジナル7曲のうち5曲がエコーなしのステレオで収録されている。
"THE BONNIWELL MUSIC MACHINE" (Warner Bros., 1967)
Astrologically Incompatible;Double Yellow Line;The Day Today;Absolutely Positively;Somethin Hurtin On Me;The Trap;Soul Love;Bottom Of The Soul;Talk Me Down;The Eagle Never Hunts The Fly;I've Loved You;Affirmative No;Discrepancy;Me, Myself And I.
前作LPの後シングル2枚が発表され、内"Double Yellow Line" はもう少しでTOP 100に食い込むという所までいったが、よりよいプロモーションを求めて彼等は、プロデューサー共々ワーナーに移籍。時を同じくしてショーン以外のメンバーが離脱、内3人がミレニウムの結成に参加する。それでもなお、新メンバーを補充して新曲制作が続けられ、67年末に満を持してアルバムにまとめられた。今度は全14曲たっぷりショーンのオリジナルでまとめられた。但し内容的には旧メンバーと新メンバーによるものが混在している。しかしアルバム1枚を通して聴くと全く違和感なく、それだけショーンの強烈な存在感がものをいっているのだろう。シングル・カットされた(7)(14)の2曲が新メンバーによるものである。とにかくこちらは充実した内容。ガレージ的狂暴度は薄くなっているものの、ショーンの「歌」の世界をたっぷり楽しめるという点はファーストの比ではない。後のソロ作品を予感させる穏やかなフォーク・バラード"The Day Today"、美麗なチェンバロ・サウンドとハーモニーにミレニウム組の後の開花を見る思いの"The Trap"、オーティス・レディングに絶賛されたというソウル色濃いボーカルとガレージ・サウンドがさく裂する"Soul Love"、歌詞とメロディ両方に対位法を効果的に使った名曲"Discrepancy"など聴きものが多いが、やはりサイケ時代だけに"Eagle Never Hunts The Fly"や"Me Myself And I"といった実験的サウンドの曲に耳が行ってしまう。前者はオリジナル・サウンドでの最後のシングルとなった曲だが、サウンド全体が混沌とする中、ショーンの痛々しい心の叫びがフィーチャーされたコマーシャルとは程遠い出来。一方後者は、この曲のために特別に考案されたというVOX社製の特殊エフェクトを通したオルガンが妙な雰囲気を醸し出している。96年になってボーナス・トラックを追加して遂にリリースされたCD"Beyond The Garage"はそれ自体大優れものだが、LPの曲順で聴きたいという方には、上記の曲目の様にプログラミングすることをおすすめします。
45's
Talk Talk/Come On In (Original Sound, 1966)
不滅の名曲。"Chinese Jazz"と形容された不思議なリズム・パターンに威嚇するファズ・トーン、怒れる歌声。1分56秒に凝縮されたみなぎるテンションにビルボード誌も15位まで昇天。なぜか日本ではレーベル契約がなく発売されなかった。ファイア・エスケイプなどのサイケ便乗グループからアリス・クーパーまで幅広くカバーもされ、レジデンツの「サード・ライヒンロール」にもさりげなく挿入(丸芽志悟もこのヴァージョンで初めてこの曲を認識した)。
The People In Me/Masculine Intuition (Original Sound, 1967)
上記の様な理由で大ヒットに結び付かなかった2枚目のシングル。男の直観について歌ったB面もテンション乱れ飛びの名曲。
Double Yellow Line/Absolutely Positively (Original Sound, 1967)
狂気も危険ラインを越えてはならぬという警告。実際車を運転しながら作られたらしい。
The Eagle Never Hunts The Fly/I've Loved You (Original Sound, 1967)
この曲では危険ラインを遥かにオーバーしてしまった。アヒルの鳴き声を出すおもちゃをサイケに使用。シングル・ヴァージョンの冒頭と最後には妙なエフェクトが付け加えられている。
Bottom Of The Soul/Astrologically Incompatible (Warner Bros., 1967)
A面はワーナーのシングルでは最もガレージ的ナンバー。B面では星占いの功罪に付いて歌う。ダグとショーンの二人でホーン・セクションを担当している。
Me, Myself And I/Soul Love (Warner Bros., 1967)
特殊エフェクトが大活躍のA面はデ・ラ・ソウルを22年、いきすぎテンションのB面はGLAYを31年(......関係ないか。でもデビッド・ボウイより早い)先取り。ショーンの語法に恐れ入る。メンバー・チェンジ後初のシングル。
To The Light/You'll Love Me Again (Warner Bros., 1968)
アルバムの後初めてリリースされたシングル。A面はグッドタイミーかつファンキーなポップだが、B面はみなぎるサイケ・エネルギーが凄すぎの名曲。両面とも"Beyond The Garage"に収録されている。
Time Out (For A Daydream)/Tin Can Beach (Warner Bros., 1968)
ホーン・セクションをフィーチャーしたいい感じのA面、フランジングまみれのポップ・ナンバーであるB面。テンションは高くないが捨て難い1枚。両面とも"Beyond The Garage"収録。
Advise And Consent/Mother Nature-Father Earth (Bell, 1969)
ベルに残した唯一のシングル。ポップな感じは後退し、サイケなオルガンをフィーチャーした初期を思わせるサウンド。案の定A面の録音は67年に成されている。両面共に"Ignition"に収録。
Point Of No Return/King Mixer (Sundazed, 1997)
97年リリースされた"Ignition"のパイロット・シングル。66年に録音された未発表曲だが、これは凄いっす。どうしてこんな曲が埋もれていたのか。やはり凄すぎるからか。12弦ギターのフォークな響きに突如ファズが割って入り、オルガンのトーンがムードを撹乱する。「スマイル」同様、時代に出ることを許されなかった逸品なのかもしれない。B面は「ヤァ! ヤァ! ヤァ!」のセリフに触発されたとおぼしきサイケなビートルズっぽいポップ。こちらは69年の録音。
Other Tracks
1985年にライノからリリースされた"The Best Of The Music Machine"には、ファースト・アルバムの5曲、セカンドの3曲、シングル曲3曲に加え、全く未発表だったナンバー3曲が収録されている。"Everything Is Everything"は後期キーボードだったハリー・ガーフィールドとの共作だが初期に近いガレージ・ポップ。残る"Black Snow"と"Dark White"はヘヴィなサイケ・ナンバーだ。前者はショーンのソロ"Close"で再演されているが、まるで別曲の様な仕上がり。"Dark...."以外の2曲はワーナーからライセンスを得て収録されているとクレジットされているが、サウンドから判断してどの時期のものかってのにはまだまだ謎が残る。しかし"Ignition"に於いてこの3曲も遂にCD化。データによると"Dark White"は69年の録音となっており、後の2曲はワーナーとの契約が続いていた68年の録音であることも明らかになった。
96年リリースのサンデイズド盤CD"Beyond The Garage"にはセカンドの全曲、ワーナーのシングル曲4曲に加え未発表曲が2曲入っていたが、これらはマニアの間にはすでに良く知られたナンバーである。"No Girl Gonna Cry"はファースト・アルバムのセッションで録音されたハード・ガレージ・ナンバーで、ショーン自らの曲紹介とともに何かの付録ソノシートに収録されたことがあり、そのヴァージョンが"Turds On A Bum Ride"というコンピに流用されて広く出回った。もう一曲の"In My Neighbourhood"も、"You'll Love Me Again"とのカップリングでプロモ・シングルのみ出回ったという説があるもので、ここではリミックスしたヴァージョンで収録されている。
2000年、遂にリリースされた"Ignition"には、ラガマフィンズのデモ録音として"Two Much""Chances""Push Don't Pull"と、"BMM"で再演された"Talk Me Down"の初期ヴァ−ジョンの計4曲が収録された。"BTG"のブックレットに載っているテープ・ボックスの写真で存在が明らかになった"Worry""Smoke And Water"と、ファンキーな演奏を聴かせる"Unka Tinka Ty"が第1期の未発表曲。第2期では前述したものに加え"This Should Make You Happy""Tell Me What You Got"が発掘された。第3期はソロ前夜として実験的なレコーディングが幾つか行われていたが、特筆すべきなのは"Citizen Fear"。ポール・バフが制作し、自らのプロジェクトであるバフ・オーガニゼーションのシングルB面としてリリースしたアシッドなインスト"Upside Down World"のトラックを借用して、さらにコーラスとボーカルを加えた前衛的なナンバーである。当時ショーンとポールはFreindly Torpedoes名義でシングル"Nothing's Too Good For My Car"を発表していたが(ちなみにこれは未収録)、これもこのような実験的試みから生まれたものかもしれない。"902"も69年の未発表曲でこれはかなり冗談っぽいタッチの珍しい作品だ。
"Ignition"登場で第1期ミュージック・マシーンのヴィジョンもやっと明らかにされた。真のファ−スト・アルバムは、オリジナル曲7曲にカバーではなく"No Girl Gonna Cry""Point Of No Return""Worry""Smoke And Water""Unka Tinka Ty"の5曲を加えれば丁度いい形に仕上がるのではないか。いずれにせよ凄い連中である。