音楽よもやま話拾い集め(ラヴの巻)
(初出 1998/8/31、「Spinning Spinning Spinning」)
1968年と言えば日本ではGS旋風が吹き荒れ、海のむこうではニュー・ロックと称する(もっとも称していたのは日本人だったんだが)新たな音楽革命が少しずつ萌芽を見せ始めていた年。そんな年に、大きなコマーシャルな成功を収める事はできなかったものの、今では同じく68年産の名盤である「ホワイト・アルバム」や「ベガーズ・バンケット」と肩を並べるロックの名盤として堂々と評価を得ている3枚のアルバムがひっそりと発売された。ミレニウムの「ビギン」、ヴァン・ダイク・パークスの「ソング・サイクル」と今回の特集の主役、アーサー・リー率いるラヴの「フォーエヴァー・チェンジズ」である。この3枚は、アルバムとして発売当時日本盤として紹介され損ねたという悲劇も共有しているが、やっと時代が追い付いたって感じの前者2枚に比べるとラヴの評価はまだまだではないかと思う。この日本においては、少なくとも。
ラヴがグループとして最も精力的に活動していた時期に、「セヴン・アンド・セヴン」と「リトル・レッド・ブック」のカップリングのシングルがビクター・ワールドからリリースされた(当時エレクトリック・プルーンズや?&ミステリアンズもここから紹介されていた)ものの、認識した者は誰もいなかった。その事実を妙な形で物語っているのが、元アウト・キャストの藤田浩一(後に菊池桃子らを抱える事務所の社長)が新たに結成したグループ「ザ・ラヴ」が活動していたことだろう。確かにだだっ広いアメリカのローカル・シーンにもタイガースとかスパイダースという名前のグループが実在してたが、それが単なる偶然の産物だったことと同じ。日本でアーサー・リーのラヴっていう存在をチェックしている者は皆無だったと言ってもいいだろう。やがて70年代になると、ジミ・ヘンが参加した最後のセッションという事実が話題となり、6枚目のアルバムである「False Start」がやっとキングの手によって日本でもリリースされ、ジミの参加曲が「ジミーの賛歌」という邦題で2枚目のシングルとして発売された。同時期にリリースされたエレクトラ時代のベスト「Revisited」もそれに便乗するかのようにビクターから発売されたが、それでも彼等に対する認識は変らなかった。ラヴとしてリリースされたアルバムはそれが最後だったのがあまりにも悲しい事実。さらに時代が進んで70年代末期にもラヴの無認識をさらけ出すような事態が発生している。人気ハード・ロック・グループ、UFOのアルバム「新たなる殺意」の中でラヴの名曲「Alone Again Or」がカバーされたのだが、比較的オリジナルに忠実なアコースティック・アレンジで演っていたにもかかわらず、東芝の担当者はその曲に「ひとりぼっちのロックンロール」というタイトルをつけてしまったのである。名曲なのに、なんてことしてくれるのだ。
かくいう丸芽がラヴというロック・グループがある事を知ったのも実はこの頃のことで、79年に刊行された英米の評論家が選ぶロック名盤200枚をリストアップした「これが最高」という本をめくっていたときのこと。上位にはビートルズ、ストーンズ、ディランなどお決まりの名前が並び、「アストラル・ウィークス」というアルバムにはなじみがなかったもののヴァン・モリソンも一応知ってはいたし、ヴェルヴェットのバナナのジャケのアルバムもよく目にしていた。それらに続く16位にいたのがラヴという聞きなれないグループによる「フォーエヴァー・チェンジズ」というアルバムだった。アルバムのジャケ写とボブ・ハリスのコメントの上には、冴えないルックスの4人の写真が。一体こいつらはどんないい音楽を奏でているのか。しかし他のアルバムには当時入手可能だった日本盤の番号がしっかり書いてあったのに、このアルバムは「未発売」。そうか、幻の名盤だったのか。2年後、このアルバムはワーナーの今でいえば「名盤探検隊」シリーズの様な再発企画で、ラスカルズ、シャドウズ・オブ・ナイト、エレクトリック・プルーンズなどと共にやっと日本でリリースされた。87年になってやっとその再発盤を聴いて死ぬほど感動し、ずるずるはまっていくと思いきや、ちょっと冷めた。91年には映画「ドアーズ」の盛り上がりで大々的なドアーズ・キャンペーンが行われ、そこに付随するような形で、レーベル・メイトかつドアーズに大きな影響を与えたとされるラヴの最初のアルバム3枚がやっとCD化され、「フォーエヴァー....」は静かながらやっと名盤としてのステイタスを日本でも確立したのだ。その4年後にはライノからCD2枚組アンソロジー「ラヴ・ストーリー」がリリースされ、丸芽を改めてとりこにする。アナログで持ってはいたエレクトラのアルバム4枚を改めて聴き狂い、輸入盤でCD化されていたブルー・サムの2枚も結構聴いた。皮肉なことにこの頃アーサー・リーは、隣人に向かって銃を乱射したとかで逮捕され、現在も服役中である。しかし彼の残した音楽がそんなことで汚されるなんてことは絶対にない。彼の望んだその言葉「愛」を冠したグループ名。「虎達」や「蜘蛛達」の時代に、「涅槃」や「万華鏡」や「種」を名乗ったグループも幅を利かせた時代。「愛」なんてなんて潔いのだろうか。そんなわけで今回は、9月に初期3枚のアルバムがめでたく再CD化されるのを記念してやっとのことラヴ特集をすることにしました。なにせこのグループ、音楽的にはまとめて語れないほどいろいろな面を持っているので、アルバム毎に見解を交えて概要をまとめてみようと思います。
"LOVE" (Elektra, 1966/4−Elektra AMCY-3191[CD])
1966年1月たった4日で制作された記念すべきデビュー・アルバム。アーサー・リー(vo,g)を中心にブライアン・マックリーン(g,vo)、ジョン・エコルズ(g)、ケン・フォーシ(b)、アルバン"スヌーピー"フィスター(ds)というラインナップ。ただスヌーピーが不慣れなドラマーだったため、アルバムの大半ではアーサーが自らドラムを担当した。いかにもサイケ前夜のL.A.という感じのフォーク・ロック・サウンドがほぼ全編にあふれる好作品だが、全体を覆い尽くす欝感が何ともいえない。黒人として生まれ育ったゆえの屈折したポップ感が、当時のL.A.の空気と融合して生まれた他に類を見ない楽曲の連続。デビュー・シングルで、作者バート・バカラック本人はいい思いをしていないという"My Little Red Book"のアグレッシヴな解釈に始まり、ストーンズの「ホワット・ア・シェイム」を改作したらしい"Can't Explain"、素直さに満ち溢れるバラードの名曲"A Message To Pretty"、「ヘイ・ジョー」にヒントを得た"My Flash On You"、ドラッグ中毒者の悲しみを描いたダウナーな"Signed D.C."など、66年を代表する名曲が並ぶ。アーサーの影に隠れがちなブライアンによる陰影に満ちた"Softly To Me"もいい。彼の歌う「ヘイ・ジョー」は明らかにリーヴスのヴァージョンの元ネタ的アレンジであるが、"My Flash..."と比較して聴くのも面白い。
"DA CAPO" (Elektra, 1967/1−Elektra AMCY-3192[CD])
この2枚目のアルバムでは新たにマイケル・スチュワートがドラマーとして加入。キーボードに回ったスヌーピーと、サックス・フルート担当のジェイ・キャントレリがラヴのサウンドに新たな空気を持ち込んだ。A面に収められている6曲は各々に違った顔を持つ独立した楽曲で、前作のフォーク・ロック指向は薄れよりカラフルにパワフルに昇華されたラヴ・ワールドが展開されている。3枚目のシングル・カットとなった"Stephanie Knows Who"は屈折した変拍子にジャズ風のインタープレイが白熱するハードな曲で、いよいよサイケに入ってきたなという感じ。以下幻想的なブライアン作品"Orange Skies"、ラテン・タッチを取り入れた"Que Vida!"、フォーキーで不思議な"The Castle"、 午後の風の様に揺れる"She Comes In Colors"と、新たに取り入れたハープシコードやフルートが活躍するカラフルなアレンジの4曲の合間にぽつんと置かれたのが大爆発ナンバー、シングルとしては最大のヒット曲"Seven & Seven Is"だ。ここまで激しく破壊力が強い曲にお耳にかかれることは滅多にない。新たなドラマー、マイケルが大活躍の激しいビートに乗せて、全ての音と声が挑発してくる。そして....当時は小さなクラブ・ギグ中心に活動していたアーサー達だから、曲の最後の爆発音とともにマグネシウムをドカーンなんてことはやりたくともできなかっただろうが、そんな演出を見てみたいもの。この爆発に続くレイジーなコーダの効果も絶大である。そしてB面は18分に及ぶ大胆な実験作"Revelation"。ディランの「ローランドの悲しい目の乙女」に続くアルバム片面まるごと使いで、ロック、ブルース、フォーク、ジャズ、クラシックをごった煮にしたラヴ・サウンドの真髄。ストーンズの「ゴーイン・ホーム」('66年6月発売)との類似性が言われているが、彼等いわく「クラブでこの曲を演奏しているのを聴いたストーンズがインスパイアされた」とか....ちょっと、第1期ラヴの編成ではこの曲は難しいでしょう。いずれにせよ「ゴーイン・ホーム」とこの曲、そしてシーズの「アップ・イン・ハー・ルーム」という合計すると約45分に及ぶ大作3曲が、同じ年に同じエンジニア、デイヴ・ハッシンジャー(他にエレクトリック・プルーンズの「今夜は眠れない」も同時期にプロデュース)の手で、同じRCAスタジオで録音されているというのはロック史に残るミステリーである。このアルバムで一時的7人編成になったラヴだが、サウンド的に重要な働きをした二人はすぐに離脱。ジェイはこの後シーズの問題作「フューチャー」やバーズの「ルネサンス・フェア」でもプレイしている。
"FOREVER CHANGES" (Elektra, 1967/12−Elektra AMCY-3193[CD])
この一大傑作は当初ニール・ヤングがプロデューサーを務める予定で制作が開始されたが結局うまくいかず、スタジオ・ミュージシャンを導入するというアイディアもバンド・メンバーの猛反発にあい、結局かなりの時間をかけて制作された。前作のカラフルなムードから一転してサウンド的にはより内省的に。全編を通してアコースティック・ギターがフィーチャーされ、そこに浮遊的なオーケストラが彩りを添えてみせる穏やかな曲が多い。アシッド・フォークなのか。しかしやっぱりここでの主役はアーサーによる含みの多い歌詞と歌声である。歌詞カードが手元にあっても到底理解できない、あらゆる屈折した語法(妙な韻の踏み方をしたり、1つの単語で複数の意味を言い表したり、複数のセンテンスが交錯したり、2つ以上の単語を同時に発することも)で綴られた人生のあらゆる場面。「我々はみんなノーマルなんだ、そして我々は自由が欲しい」という節実な願いは、後にボンゾ・ドッグ・バンドの"We Are Normal"で逆説的にパロられ、トリビュート・アルバムではタイトルに選ばれた。その一節が登場する屈折歌詞の極み"Red Telephone"(ビートルズの「レボリューション」や、R.E.M.の「エヴリバディ・ハーツ」にもこの曲の影響が)に加え、シンプルながらもじわじわと聴き手を浸食していく"The Good Humour Man"(なぜか某ソフト・ロックのコンピに入っていたが、いかがなものか)や挑発するオーケストレーションに乗せてラウンジ・シンガーの様にアジる最終曲"You Set The Scene"など毒気が強い曲の数々。たまらなく美しい"Andmoreagain"やロック的雰囲気がある程度維持されている"Between Clark & Hilldale"や"Bummer In The Summer"なども外せない。イントロがPUFFYの「これが私の生きる道」に影響を与えた(?)"The Daily Planet"は唯一ニール・ヤングがアレンジで協力した曲。シングルとして2度ヒットした前出の"Alone Again Or"はブライアンの優しさが表われた名曲だ。でも本当は単純に名曲と呼ばれる事を拒否するほど深い作品なのだ。これからこのアルバムを体験したい方には、この全曲が収録された、オリジナルCDと違うリマスター音源を使用、CDを入れ替えることによりAB面ひっくり返し擬似体験も出来、さらに日本盤には訳詞も付いている(私は未見だけど....)ライノの「ラヴ・ストーリー」をおすすめ。Here 'Tisというファンジンに「他のアルバムの曲はボーナス・トラックとして収録されている」とまで言わしめた、ライナーも充実のすぐれものである。
"FOUR SAIL" (Elektra, 1969/8−CD currently not available)
前作の発売後、シングル1枚を発売したもののいろいろ紆余曲折があってアーサー以外のメンバーは総入れ替え。69年に録音された大量のマテリアルはLP3枚に分散され、最初の1枚でエレクトラとの契約を満了した。しかし音楽的にラヴはまたも激しい動きを見せる事になる。激しいギターのイントロに導かれて憂いを帯びたメロディが歌われる"August"からして、前作から想像出来ない楽曲だ。アーサーの曲作りのセンスは衰えていないものの、詩的分裂風味は減少。さらにこの曲においてはやたらドタドタバタバタとあわただしいドラムが雰囲気を台なしにしてしまう。確かに新ドラマー、ジョージ・スラノヴィッチはちょっとやりすぎ。続く"Your Friend And Mine-Neil's Song"のある種のやる気のなさは、チョコレート・ウォッチバンドの"One Step Beyond"にも通じる絶望感が漂うもの。しかし後半にはパワー・ポップに通じる強力なナンバー"Robert Montgomery"もあって、無視出来ないアルバムではある。アーサー自身は決して枯れてはいない。「スマイル」を挟んで「ワイルド・ハニー」で「ペット・サウンズ」をフォローしたビーチ・ボーイズのケースに近いって感じもあるアルバムだ。(ちなみにラヴもこの2作の間に"Getscemane"という幻のアルバムを制作していたらしいが、現在そのアルバムについての全ての情報は迷宮入りしているようだ。)「ラヴ・ストーリー」には6曲が組み入れられているが、単独CD化は実現していず今後も多分ないであろう。
"OUT HERE" (Blue Thumb, 1969/12−One Way MCAD-22030[US CD])
69年録音の大量のマテリアルの残りから構成されたブルー・サム移籍第1弾2枚組(LP)大作。前作は契約満了アルバムにも関わらず割とかっちりした構成の10曲からなる作品だったというのに、気合い入るはずの移籍第1弾はなぜか分裂した内容で、1分台の曲4曲と10分以上の曲2曲も含む17曲が無造作に並んでいるという感じ。サウンド的にも前作と同じ状況下での録音の割にいまいち締りが悪い。それでもラヴ・ブランドのいい音楽はある程度の水準を保っている。本当に大名曲と呼べるのは穏やかな"Willow Willow"位だけど、エルヴィス的なフレーズを取り入れたグッドタイミーな"I'll Pray For You"や美しい"Listen To My Song"、レニー・クラヴィッツの元祖的ハードなブラック・ロック"Stand Out"、爽快なコーラス入り"I Still Wonder"や"Nice To Be"、お気楽ムードの"You Are Something"や"Run To The Top"等はいける。ファースト収録の名曲"Signed D.C."もわけあり度倍増のハード・サウンドで再演。オルガン・インスト"Instra-mental"はなにも考えてないタイトルといえ貴重な一曲。ただし12分に及ぶ"Doggone"は内9分がジョージのどうしようもないドラム・ソロから成り、これだけは「ラヴ・ストーリー」収録のエディット・ヴァージョンで我慢したいところ(実際こうするとこのアルバムのC面までが90分テープの片面に入り、もう片面には残るD面と次作を入れるとぴったりだった) まあ、ジョージのドラムに苛立つところもあるにせよ、回りが言う程悪いアルバムではありません。
"FALSE START" (Blue Thumb, 1970/12−One Way MCAD-22029[US CD])
問題のジミ・ヘン参加曲"The Everlasting First"からスタートするラヴとしてのラスト・アルバム。その曲の、テープ巻戻し音のあと唐突に曲の途中から始まるイントロは、もしやこの曲は本当はもっと長いのではと聴くものを幻滅させるものだが、デビュー以前から親交があったというアーサーとジミの熱いバトルはちょっとだけとはいえ聴き応え充分である。しかしこの曲の後はテンションが下がる一方。曲の繋ぎ方に工夫がされていたり、途中ライヴ音源を入れたりしているものの、全体にグッド・タイミーな70年代ロックという曲調が続き、アーサーらしい閃きも最小限に抑えられている。グルーヴ音楽としての70年代ロックを求める向きにはいいかもしれないけどね。レニー・ファンにはお勧めできる。
なおこの2年後にはアーサー・リー&バンド・エイド名義でアルバム"Vindicator"がリリースされた。後期ラヴのグッドタイミー・ロックな感じは維持されているが、演奏的にはよりタイトになっている感じ。このアルバムは一度バブル絶頂期のポニーキャニオンでCD化されたこともあり、どの程度売れたか心配になったが、去年になってやっと本国アメリカでもボーナス・トラックを大量収録しCD化された。アーサーはこの後もRSOやライノから新マテリアルをぼちぼちと発表していたが、現在は前述の通り。一方ブライアンのレア・デモ・トラック集は先ごろサンデイズドからリリースされた。
また、ファンには見逃せない関連作品として、60年代のガレージ・バンドによるカバーを集めたコンピ「Sixties Rebellion 8~Mondo Mutiny #1:The Love」(独Music Maniac)と、94年にリリースされたトリビュート・アルバム「We Are All Normal & We Want Our Freedom」(米Alias)も挙げておきたい。前者はブリティッシュ・グループ以外ではガレージ・ピープルに最も支持されたバンドであることを物語るように、当初ローカル・レーベルでシングル発売(!)されたネタが20曲も並んでいて、各自ひたむきな演奏を聴かせてくれるし、後者はパワー・ポップ、アシッド・フォーク、ロウファイ、グランジなどにおけるラヴの隠れた影響力を浮き彫りにしてくれる。中でもティーンエイジ・ファンクラブのノイズまみれな"Between Clark & Hilldale"と、元タキシードムーンのピーター・プリンシプルによるエキゾ・インストに仕上がった"Emotions"が面白い。他にもアージ・オーヴァーキルやアンクル・ウィグリーなどが参加している。
以上、ささやかながらのラヴ特集。厳密には「フォーエヴァー....」は31周年なんだけど、やっぱ日本のサマー・オブ・ラヴ30周年月間を締めくくるっつーことでふさわしいと判断してあえてやってみました。皆さんもこの機会に再CD化となる彼等のアルバムをためしてみてはいかがでしょう。