これをチェックする前に.....上田知華+KARYOBINのピコ=樋口康雄作品のみを集めた待望のコンピレーションが2003年11月遂にリリースされました。以下の文章はこの作品の素晴しい内容を前にすると全く無意味ですので飛ばしていただいても結構ですが、ピコ作品以外にもいい曲はいっぱいありますので気に入った方は中古(しかないんですよね仕方ない....)で下記『全曲集』『MUSIC SOUP』(当然ピコ作品集とのダブリはなし)のCDやオリジナル・アルバムのアナログ盤を探すことをおすすめします。なお、文中でボールド体表記されている曲名は『樋口康雄作品集』で聴く事が出来ます。
(2003/12/6追記)
11月の「ココロの寄せ鍋」(ワインとサラダと思い出話添え)
上田知華+KARYOBIN
「上田知華+KARYOBIN全曲集」
Elektra 30XL-270 (88年CD発売)
8月の「ココロの寄せ鍋」に登場した山口美央子と今回登場する上田知華は、いろいろと共通項を持っている二人である。80年代初頭に特異な女性シンガー・ソングライターとして頭角を現わし、各々一曲づつコマーシャル・ソングで中ヒットを放った。80年代末期から主にアイドル中心に作家としての活動を本格化。クライアントを見てみると、今井美樹、渡辺満里奈、ともさかりえなど二人揃って曲提供してる人が意外と多い。富田靖子のアルバム「OCTAVE」(87)に収録されている「KOSMOS」では、代官山シスターズとして、作詞家の川村真澄を加えた三人でコーラスしたりしていた。
この共通項を多く持つ同世代の二人だけど、やはり各々の個性の違いも当然あり。シンセを使いこなし、テクノ世代のエキゾ歌姫というイメージを(ルックス含めて)与えていた山口さんに対して、上田さんは弦楽四重奏バンド、KARYOBINをバックに従え、ピアノ弾き語りで天然なイメージを前面に。ルックス的にもいいとこのお嬢様という感じがした。デビュー当初から作詞作曲だけでなく編曲にも大幅に関わり、自由奔放に才能を放射していた山口さんに対し、上田さんのレコードは彼女自身の天性を活かしながら、外部作家の大々的なインプットを得てより堅実にプロデュースされていた。その外部作家の内最も重要な一人が、現在唯一のソロ作品が熱烈に再歓迎を受けているピコこと樋口康雄なのであった。当時まだ20代後半にして音楽のあらゆる愉しみを熟知し、映画音楽やテレビのBGMまでをこなしまくった彼のプロデュース術により、上田知華の音楽はさらに高く舞い上がったのだった。
78年暮れにリリースされたデビュー・シングル
「メヌエット」
を皮切りに、上田知華+KARYOBINはワーナーに6枚のアルバムを残し、80年のシングル「パープル・モンスーン」はTOP30入りするヒットに。ヒットに自信を得て、そのシングルが収録されたアルバム「上田知華+KARYOBIN(3)」(80)から彼女自身の才能が本格的に開花しはじめる(即ちピコ離れが始まる)。なお、KARYOBINの後期メンバーにはあの金子飛鳥もいたことがある。6枚目で最後のアルバムとなった「SONG」(82)では初めてリズム・セクションを導入し、上田知華サウンドの集大成を築く。その後、ビクターで初ソロ・アルバム「Classiest」(85)をリリースした後は主に作家としての活動が続いたが、今井美樹の大ヒット「瞳がほほえむから」(90)がOLにカラオケで歌われまくり(その頃、山口さんは依然としてアイドル中心に曲提供しており、91年にはオリコン100位入りするヒットを9曲も作曲しながら、年間作曲家別売り上げでは100位にも入らないという悲しい結果に)、再び自信を得た彼女は歌手活動を再開。91年にワーナーに戻り、ドラマのテーマ曲「I WILL」を大ヒットさせる。その後もVAP、再びビクターとレーベルを移動しながら、拠点をNYに移してアーティスト活動を続行中。そういえばワーナー時代のアルバムでは、ベックの父であるデビッド・キャンベルがアレンジで大々的に協力していたな。
彼女がワーナーに復帰していた90年代初期に、KARYOBIN時代の作品に対する需要が再度高まり、「MUSIC SOUP」というコンピレーションが彼女自身の選曲により組まれたが、そこに収録されていた曲は全て彼女自身の作品で、唯一「パープル・モンスーン」を一曲目に入れたのが妥協のかけらという感じがした。この、ピコ作品を徹底的に無視した姿勢には個人的に納得できなかったのを覚えている。彼女自身の曲もいいんだけど、そればっかりだとなんか堅過ぎる印象があるんだよね。(末期の曲で、自分で詩を書いた曲のいくつかにも共感できなかったし)。彼女がワーナーを去ってVAPに移ったあと、初期のアルバムが一度にCD化されたのも象徴的だったな。「不本意だから再発しないでね」って言ってたんだろうなぁ。でも、今井美樹を歌う今の淑女たちは、やっぱり彼女の昔の作品にまで耳を向けることはなかったんだよな。まあ、山口さんがベスト盤「ANJU」の中で謙虚に自分の編曲者クレジットを一切外したのを考えあわせると、この二人は性格的にも完全に好対照だったと言えるだろう。その後、早瀬優香子の「TOMORROW MOON」を巡る一件を知ったせいで、ますます上田さんに対する自分の見解は好意的なものでなくなっていった。
そこで今回のココロの寄せ鍋に登場するのは「MUSIC SOUP」ではなく、88年3月にひっそりとCDで出ていた初期のベスト・アルバムである。元々80年にカセット・テープとしてリリースされていたものをCD化したもので、丁度CDサイズに収まったところがなかなか能率的(?)。80年なので、当然初期3枚のアルバムに入っていた曲しか選ばれていない。だから当然、ピコ作品が多い。20曲中14曲。それ以外が彼女自身の作品である。ただ「全曲集」の割にレコード会社の営業的色合いが少ないのがまた変な選曲で、その証拠は3rdシングル
「ガールフレンド」
(彼女がピアノを弾きながら歌って登場し、後半はウシャコダが登場してセッションで締めくくるという、パイオニアのTVのCMに使われていた曲)と4thシングル
「ステンドグラス」
(平岩弓枝女のドラマシリーズ・テーマ曲)が入っていないところにある。後者なんて死ぬ程いい曲なんだけどなぁ。
内訳。ファースト・アルバム「上田知華+KARYOBIN(1)」からは、
「BGM」
「RINGO」、2ndシングル
「オープン・ザ・ウィンドウ」「二人のディナー」
「ブルージィ・モーニング」とデビュー・シングル
「メヌエット」
の6曲。何れもデビュー作らしい初々しい歌声とアレンジで、新時代のポップを築こうという心意気が伝わる。松本隆作詞で、「ゴンドラの唄」を鮮やかに挟み込んだ「メヌエット」は未だに鮮烈だが、彼女自身の作詞作曲による「RINGO」と「ブルージィ・モーニング」(編曲はピコ)が若々しくフレッシュで素晴らしい。
セカンド・アルバム「上田知華+KARYOBIN(2)」からは、
「シティ・ガイド」「ひとり季節に取り残されて」「アンダルシアの風」「See You Again」「卒業旅行」「ラメント」「あとは成り行き」
と7曲選ばれた。選曲漏れした4曲中3曲がシングルのA面かB面だったというのが皮肉だが、選ばれた7曲はいずれもクオリティが高い作品ばっかりで、無視するなんて勿体無さ過ぎる。ピコの作曲とアレンジのセンス、KARYOBINの演奏力の高さと上田さんの瑞々しい歌唱で、心にずんずんと迫ってくる名曲ばかり。「シティ・ガイド」でふらっと「エリーゼのために」を忍び込ませたり、「あとは成り行き」でループっぽいリズムを導入してみたりと、さり気ない演出も気が効いているが、何と言っても「ひとり季節に取り残されて」が圧巻。ピアノと弦楽四重奏だけでここまでグルーヴを表出させてしまうとは。ピコの「I LOVE YOU」に打ちのめされた人達に、絶対に聴いてほしい一曲である。プログレ・バラードとでもいうべき「卒業旅行」も素晴らしい。
サード・アルバムからはヒット曲「パープル・モンスーン」以下、「MAGICAL MYSTERY KISS」「LADY'S BLUE」「さよならレイニー・ステーション」「ベンチウォーマー」「少年」
「バス・ステーション」
の7曲。自ら積極的に作曲・編曲に関わり始め、ピコ以外にもすぎやまこういち、渡辺茂樹(元ワイルド・ワンズ=チャッピー)といったスタッフを新たに迎え入れての珠玉のポップ・ソング集。ピコが前作で体現した実験精神をさりげなく自分のものにしながら、彼女ならではのポップスが初めて今作で花開いている。ここから「MUSIC SOUP」に4曲も選ばれたのも象徴的。なお「さよならレイニー・ステーション」は80年に倉田まり子によりカヴァー・シングルが発売され、結果的に上田知華にとって初の外部作家活動となっている。
というわけで全20曲、未だに色褪せない名曲が並ぶマスターピース。このベスト盤が入手しづらくなっているのが残念だが、ワーナーさんは今のうちにピコ作品を中心とした新しいコンピを作って、若いグルーヴ世代に上田さんの素敵な世界を伝授してあげるべきです。それこそ新宿タワーのピコ山積みコーナーに置いてあげて。たとえ彼女自身が納得しなくても.....そうだよ、素敵な新作を作って対抗すればいいのだから。
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