1月の「ココロの寄せ鍋」(風船ガム風味)
1910 Fruitgum Co.
"1910 Fruitgum Co."

Buddah/Victor VICP-5352(94/2/23発売:廃盤)
ベトナム戦争、学生運動等で空気全体がハードな形相を見せていた60年代末期のアメリカ。音楽シーンもその影響でサイケを経てシリアスなロックが支持を集め始めていたのだが、その反動として登場したのが単純明快、悪くいえば幼稚ぎりぎりのポップ・ソング、所謂バブルガム・サウンド。従来のポピュラーからどの様に進化(退化?)したかというと、サウンド的にはサイケを通過してボトムが強調された、より乗りのいいビートが前面に出たこと。メロディはカート・ベッチャーらの洗練されたポップを通過してより解り易くなり、歌詞は徹底的に解り易くさらに白痴に。そんな中に絶妙な比喩を加えて子供達をちょっぴり大人の世界に誘うというものだった。このムーヴメントで中心的役割を担ったのがジェリー・カセネッツとジェフ・キャツの二人。彼等のプロデュースの元、ミュージック・エクスプロージョン、オハイオ・エクスプレス、そしてこのCDの主役である1910フルーツガム・カンパニーその他諸々のわけのわかんないグループがヒットを連発した。所詮からくり、飽きられるのも早かったが、アメリカ音楽界を深刻なブルー状態から救った彼等の心意気は忘れるわけにはいかない。
このCDはフルーツガムの放ったヒット曲を中心に24曲を集めてコンパイルしたもので、これ一枚でカセネッツ=キャツの哲学は充分に堪能出来るはず。まず一曲目は彼等の代表的ヒットである「サイモン・セッズ」。徹底的に幼年層にターゲットを絞った、所謂「遊び歌」である。そのシングルのB面に収録されていたのが(3)「鏡の反射」であり、こちらはローカル・サイケの名残が濃い曲である。それもそのはず、K&Kコンビにでっちあげられたこのグループは元々ニュージャージーでもがいていた一介のローカル・バンドであり、その頃の面影をレコード上に残した唯一の例がこのB面曲だった。一連のヒット曲においては歌も演奏もスタジオ・ミュージシャンがK&Kの指揮の元行っており、いつしかバンドとしての1910フルーツガム・カンパニーという存在は疎かなものとなってしまう。何せアルバム毎にクレジットされているメンバーの名前が違うんだもの。
で、単純明快バブルガム路線は続くシングル(2)「ジャイアント・ステップ」以下、(8)「1、2、3、レッド・ライト」、(13)「グディ・グディ・ガムドロップス」といったヒット曲を引導していく。アルバム・トラックの中にもこの路線の佳作が多く、タイトルだけでもトホホな(12)「9、10、レッツ・ドゥ・イット・アゲイン」や(15)「A、B、C、アイ・ラヴ・ユー」、ヒット曲のタイトルを引用した歌詞の(11)「ソング・ソング」にトラッドをアレンジした(7)「ポップ・ゴーズ・ザ・ウィーゼル」等がこのベストにも選曲されているが、最大の聴きものは(6)「バブルガム・ワールド」。バブルガムを馬鹿にする人達への返答として皮肉っぽく歌われる曲だが、イントロからもうニヤリ。何故かは敢えて申しませんが、一言。筒美京平は偉い!
一方シングルのB面は気楽なインスト曲、A面を逆回ししただけのもの(!)などK&Kコンビの適当路線によって埋められていくのだが、ここにはそんな中から69年のシングル「愛の設計」のB面(22)「ベイビー・ブレット」が収録。電子音が怪しく絡む適当なブルース・インスト・ナンバーである。「トレイン」のB面「永遠の灯」なんかも手抜きながらグルーヴィな曲なので入れて欲しかったがなぁ。そういえばオハイオ・エクスプレスの大ヒット「ヤミー・ヤミー・ヤミー」のB面曲「ジグ・ザグ」は何とこのフルーツガムCDに収録の(5)「ミスター・ジャンセン」のカラオケを逆回ししたものである。オハイオとの関係はこれで終らず、その(9)「ヤミー・ヤミー・ヤミー」のフルーツガム・ヴァージョンがこのCDで聴けるが、これもボーカルを入れ替えただけという代物で、逆にオハイオのベストCDにはフルーツガムの「サイモン・セッズ」「1、2、3、レッド・ライト」のボーカル入れ替えヴァージョンが登場。もうどうにでもなってくれっ!
さてヒット路線も後期に入ると一段とボトムを強化した(16)「インディアン・ギヴァー」、ブラスがかっこいい(17)「スペシャル・デリヴァリー」とちょっぴり路線変更。(20)「トレイン」はアメリカではさっぱりだったが日本では「サイモン....」を凌ぐ大ヒットとなり、80年代には田中美奈子がいた'87イエイエガールズや「スターライト・エクスプレス」絡みの企画集団ロンドン娘などがカバーした。その「トレイン」が収録されているアルバム"Hard Ride"は彼等がバブルガムの枠を打ち破り野心的な試みに挑戦した作品。といっても全く理解されず、未だにカット盤がごろごろしているのだが、そこから選曲された(24)「サイモンの創造」はかっこよさすぎ。一時期フリー・ソウルのコンピにさえ収められていた、プログレ・ブラス・ファンク・ロックとでもいうべき傑作である。この後小ヒットとなったバラード(21)「愛の設計」など数枚のシングルをリリースし、あのピンク・フロイドの「箱根アフロディーテ」に出演(この時のボーカルは元マンドレイク・メモリアルの故ランディ・モナコが務めていたとのこと)など地道に活動しながら自然消滅への道を歩んで行く。
このビクター盤ベストCDはそんなフルーツガムの複雑な歩みを解り易く楽しめるもので重宝しているが、残念ながら権利が移行したため現在は廃盤。代ってBMGから「1910フルーツガム・カンパニー・ベスト」がリリースされたが、これはヒット曲以外は単純明快なバブルガム・ナンバーのみを選曲しており、手抜きB面曲や"Hard Ride"曲は無視しているという点でちょっと淋しい。オハイオ・エクスプレスのベストに関してもビクターの盤は手抜きB面が2曲も入ってるし、初期LP曲ではサイケ・ガレージ風味も伺い知れるしなぁ。BMGの奴はこれらがやっぱり無視されてます。
いやぁ、幼稚ポップの極みであるバブルガムも実はとっても深いんですねぇ。彼等以外のK&K絡みのグループ、さらに非K&K系グループ(これが実に妙なのばっかりで、楽しい)まで掘り下げているときりがないのだぁ。いつか一晩中回したいであります。
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