6月の「ココロの寄せ鍋」(割れた中国皿に盛るべし)
Danny Wilson
"Sweet Danny Wilson"

Virgin [UK] CDVX 2669 (91年発売)
ダニー・ウィルソンといってもソロ歌手ではない。男性3名より成るれっきとしたグループである。未だ全米チャ−トを流行物の指針としていた1987年夏、突如TOP40に顔を出したジェントルな曲"Mary's Prayer"によって、彼等は我が視界に舞い降りた。丁度その頃はMTV時代が峠を超え、スクイーズ、ブロウ・モンキーズ、ケーン・ギャング、ホエン・イン・ローム等センスいいブリティッシュ・グループの音が全米のラジオでももてはやされた時期で(ちなみにもう一つ忘れられないのが、グレイトフル・デッドの"Touch Of Grey"がTOP10入りしていたこと)、プリファブ・スプラウトやクラウデッド・ハウスに夢中になっていた自分の純真な心は、三たびこれだという音を歓迎する事になったのである。第一回ビーチバレー・ジャパンで見た大林素子嬢(二十歳)の綺麗な脚線と共に、1987年夏の記憶を永遠に焼きつけた一曲、それが"Mary's Prayer"だった。しかしタイミング悪い事に、この曲をリリースしていたヴァージン・レコードは、その日本法人の設立を目前に控えた段階にあり、日本盤発売とプロモーションのタイミングを逸してしまっていたのだった。この曲を含むアルバム"Meet Danny Wilson"(「ダニー・ウィルソンとの出会い」というすてきな邦題がつけられていた)が、その新設されたヴァージン・ジャパンからリリースされたのは11月になってからで、"Mary's Prayer"のシングル盤でのリリースも見送られてしまった。
このダニー・ウィルソンってグループは、元々スコットランドのダンディっていう田舎町でバスキングなどやっていたゲイリーとキットのクラーク兄弟に友達のゲッド・グライムスが加わりスタートしたスペンサー・トレイシーというグループが母体となっている。アメリカのヴァージンと契約するにあたり、俳優スペンサーの未亡人であるキャサリン・ヘップバーンからクレームがつき(プリファブのアルバム名変更といい、ハリウッドには勝てないものだ....)、フランク・シナトラの映画からとった「ダニー・ウィルソン」にグループ名を変更。アメリカでのヒットから1年遅れて、リミックスされた"Mary's Prayer"がやっとイギリスでも火がつき、名実ともにヒット・グループの仲間入りした。89年にセカンド・アルバム"Bebop Moptop"(元々は"Disney Punk"という、これもやばそうなタイトルがつくはずだった)をリリースし、シングル・ヒットも連発したが、翌年各々の道を歩みたいという理由でグループは解散する。早すぎ。
ゲイリー・クラークは91年に"Eleven"名義による自主制作12インチ・シングルをリリースした後、ソロ名義で名盤"12 Short Songs About Love"をリリース。3枚カットしたシングルはいずれも2種類のパターンがあり、それらに収録されたアルバム未収録曲延べ18曲(!)も同様の高いクオリティがあった。95年にはニュー・グループ、キングLを結成して更にアルバム1枚を残す。一方他の二人のメンバーは目立ったソロ活動をしていないが、ゲイリーのソロ・プロジェクトのいずれにも参加しており、友好関係は続いていたことを伺わせている。
ゲイリーが"ブリットポップ"なバンド、トランジスターに加わり、アルバムをリリ−ス寸前までいくもまた消息不明に....という話が聞こえ始めた90年代末期、ダニー・ウィルソンの存在にどこからともなく再び光が当り始める。まず、あのキャメロン・ディアスとダメダメ男達の映画「メリーに首ったけ」のサントラに"Mary's Prayer"が使用される。時をほぼ同じくして同曲は、あの"All-Round Soul Music"を提唱するフリー・ソウルのコンピレーションの一枚に顔を出し、いよいよ日本でも正当に再評価か? そしていよいよこの5月に、"Meet Danny Wilson"が「ギター・ポップ・ジャンボリー」のシリーズの一枚として日本でCD再発! というニュースに狂喜するも、寸前になって発売中止になってしまった。全く、日本のレコード業界と彼等の関係はどうなっているのか。
この「発売中止」事件のあまりの悔しさに、今回「ココロの寄せ鍋かをり」では解散直後の91年にリリースされた彼等のベスト盤を取り上げることにした。ちなみにこのベスト盤も日本盤リリースされていない。くぅっ。
まずファースト・アルバムから選曲されたのは、大ヒット曲"Mary's Prayer"を筆頭にセカンド・シングル"Davy"、続く"A Girl I Used To Know"(「想い出の少女」)、そして"Ruby's Golden Wedding""I Won't Be Here When You Get Home"の5曲。当時彼等はスティーリー・ダン・フォロワーとして評判を得ていて、なるほどこのメロディ・センスとちょっと高貴なタッチは、あの感じを幻想の摩天楼からイギリスの片田舎に変換した感じと言ってもいい。新作発売、リマスター盤めちゃ売れでスティーリーが盛り上がってる今だからこそ、再発すればめちゃくちゃ盛り上がると思うんだけどなぁ。藤真利子以上に(爆)というわけで、東芝の愚択についてはちゃんと釈明してほしいもんである。"Mary's......"は88年にヒットした再発シングルに収録されていたポール・ステイヴリー・オダフィのリミックスがここでは採用されていて、アルバム版よりさらにリズムに鮮明さを出したヴァージョンが聴ける。"A Girl...."もアルバムより若干速く長いシングル・ヴァージョンが収録。これは日本でもシングル・カットされたが、そのB面に収められた"Ruby's....."は当時時計のCMに使われ、一部で相当話題を呼んだ。この曲を始めレスター・ボウイのグループ、ブラス・ファンタジーの客演が独特の屈折したジャズ色を加えていたのがファースト・アルバムの特色であった。
セカンド・アルバムからも5曲、シングル・カットされた順に記すと"The Second Summer Of Love"(アシッドがそこら中に...という、レイヴ真只中の当時のイギリスのサイケ・リバイバルを強烈に揶揄した作品)、"Never Gonna Be The Same""I Can't Wait""If You Really Love Me"と、もう一曲"The Ballad Of Me And Shirley MacLaine"というハリウッドへの想いを露呈した曲が選ばれている。ポップ性では前作を上回る出来を示していたが、アメリカのマーケットでは残念ながら無視されてしまった。その代り、日本では珍しくキットとゲッドの共作した"I Can't Wait"が第一弾シングルとしてカットされ、ラジオ・ヒットとなっている。もう一枚日本独自のシングル・カットとなった"If Everything You Said Was True"はここには未収録。センスの良さという点では、このセカンドもより幅広く聴かれていい作品だと思うんだが。なお"If You Really Love Me" のここでのヴァージョンは"New York Mix"というリミックスされたものが採用されている。
更にアルバム未収録曲2曲がこのベスト・アルバムに花を添えている。シングル"Davy"のB面に収録されていたジャジーな曲"Pleasure to Pleasure"と、恐らく"New York Mix"とプロデューサー名が同じのため、そのリミックス・セッションで制作されたと思われる未発表曲"From A Boy To A Man"がその2曲。以上が"Sweet Danny Wilson"の全貌だが、この作品の初回版はおまけとして更なるアルバム未収録シングル曲や未発表ライヴを14曲(但し、全てではない)も詰め込んだ"Three-In-A-Bed Romp"というCDが含まれた2枚組となっていた。心憎い。まあ、一応ここでは触れませんけどね。
まさに田舎青年的な冴えないルックス。でもセンスの良さと優しさは天下一品。銀河を往く蒸気機関車に想いを馳せつつ、両目は夜空に、両耳はダニー・ウィルソンに。いかす? 憧れる?
では、来週も激戦のルルルル3枚でいきます。

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