今週のルルルル一箱スペシャル
遂に発売!
GS BOX」の熱い世界

Solid/Ultra Vybe CDSOL-1032~7 (3月4日発売)
グループ・サウンズ、GSというのは決して懐古の対象にされてはいけない現象であり、60年代が遠ざかるに従ってその認識は益々強くなっている。60年代という時代の特殊性は二度と再現できないものであり、その特殊性を日本で最も濃厚に反映しているのがGSという現象である。確かにビートルズを生んだイギリスや、ベトナム戦争と背中合わせだったアメリカのサイケと同等のフェノメノン像は求められないが、その後の音楽界や若者文化の変遷を考えると日本に於けるGSの重要性は決して見過ごしてはならない。そして、世界に対して今こそ誇らなければいけないもの、それがGSなのである、西洋かぶれの文化人どもよ。
今まで発売されてきたGSの集大成的企画は、いずれも懐古の対象以上としてGSを扱ってはいなかった。そこに熱く過激な一石を投じた優れものがこの「カルトGS BOX」である。これはレーベルの垣根を越え、音楽的傾向毎にGSの多角的側面をまとめてコンピレーションしたという他に類を見ないものであり、まさに日本盤"Nuggets"であると言っても過言ではない。ブックレット制作に於ける徹底的リサーチとこだわり、そして音質面での改善とまとめあげなど、リイシューに求められる全ての事を期待以上に完璧に実現したという点でもこの箱はただものではない。編者である黒沢進氏の長年のGS研究の成果を集大成した、時代の布石である6枚組。まさに20世紀日本音楽界の最後に舞い降りた伝説の鳥の卵である。
ライナーで詳しく述べられているGSを生んだ時代の背景に関してはここで繰り返すまでもないので(箱を買う決心がついてない、でも気になるって方は本BOXの制作にも深く関わったHitomiさんの"Cutie Morning Moon"で基礎的なことをチェックしてね)ここから先は一枚毎に内容について触れることにしましょう。
Vol.1 Garage
まずは60年代中期全世界的に勃発した「ガレージ・バンド」としてのGSにスポットを当てた22曲。といっても日本の場合はガレージを舞台に自然発生というスタイルがあまり似合わない。しかし音楽的部分をとってみると、アメリカの無意識なガレージ・サウンド、所謂オリジナル・パンクと比べてもひけをとらないイノセンスが体現されており、時にそれは過剰に演出されて音場を破裂させている。ダイナマイツ「トンネル天国」を筆頭に22曲、海外でも公式に、もしくは非公式に紹介されて評価が高いナンバーが集められた。アウト・キャストの「のっぽのサリー」の全てを破壊するような爆発ぶりは、英米パンクを通過しなければ決して正しい評価などされなかったものだと思う。これだけでもGSの本質=ガレージ・イノセンスがいやというほど体験できるはず。無意識性で負けていないのがムスタング「ゲルピン・ロック」やルビーズ「恋のピストル」だし、過激さの奥に茶目っ気を覗かせるカーナビーツ「すてきなサンディ」も捨て難い。これは最近アメリカのオルタナ系バンドにカバーされ話題を呼んだが、もう一つフェニックスの「恋するラ・ラ・ラ」。このイントロはどう考えてもスイートの「ロックンロールに恋狂い」('73年)の原形だ。何度も言ってるけど敢えて繰り返す。やっぱGSって密かに世界的影響力が高い。あとガレージと程遠いと思われたブルー・コメッツやズー・ニー・ヴーの重厚な演奏も改めて再発見。ナポレオン「ヒッキー・ヒッキー」は久々の再CD化で嬉しい。そしてサマーズの北海道らしいさびれたローカル・イノセンスがとても愛しい。厳選された22曲の刺激。
Vol.2 Dance/R'n'B
この巻は所謂ダンス・チューン、そして米国の黒人大衆音楽であるR&Bの影響が濃い曲が集められている。ダンスといっても最新鋭のフロアでDJが回すサウンドというより、さびれたジューク・ボックスから流れる方が様になるし、R&Bといっても昨今のガングロ娘のなりきり道楽ではない、これはまじで黒い。黒いっつーか#555500位の、いい塩梅に黄色が入った黒だ。とりあえずは文句言わずにグルーヴ。リンド&リンダース「ドゥー・ザ・クラップ」やジャガーズ「ビート・トレイン」みたいな、曲の内容がどうのこうのというよりもただ単に乗せることを前提に組み立てられた曲がナイス。後半のR&B編では特にボルテイジの捻れた熱唱に日本的な黒さがみなぎっている。文句なしのソウル・マン町田義人を擁したズー・ニー・ヴーもここで聴ける2曲こそ真髄ではないか。そしてブルコメの意外な黒さもここで確認することができる。
Vol.3 Cult/Folk Rock
ある意味でこのBOX中最も選曲に勇気がいったボリュームがこれではないかと思う。まず前半のカルト編。異端音楽としてのGSを象徴するレンジャーズ「赤く赤くハートが」(ライナーの「快作」って誤植ですよね?)から始まる10曲。どれも妙な擦れ具合がロックでは全然ないようで実はロック。ライオンズ「よい子のゴー・ゴー」なんて演奏はGathering Of The Tribeに入っててもおかしくないのに、この企画性が入った途端これだよ(しかも服部良一作曲!) そしてこれを理解する外人が現れればやっとGSも本物の国際的評価が得られると私に何度も言わしめたボルテイジ「汐鳴りの幻想」。ライオンズ「すてきなエルザ」やピーコックス「レッツ・ゴー・ピーコック」もしらふと思えぬ無意識振りが曲そのものの特殊性を高めるいい例。所謂アングラ・フォーク系やストレートに歌謡曲色が濃いものは総じてカットされたが、こうした「脱力系」がない分このBOXでも決して浮くことがない。厳選故に成功の10曲。後半のフォーク・ロック編も、所謂カレッジ系フォークをビートに乗せたもの(ヴィレッジ系)は皆無で、むしろアメリカ西海岸で栄えた同種の音楽に相通じるものが集められている。このテーマでまとめて聴けるというのは新鮮だ。Vol.2のズー・ニー・ヴー同様、ここで「本来の姿」を思う存分聴かせるワイルド・ワンズを改めて見直すいいチャンスである。渚やサンゴ礁だけで片付けてはいけないんだぞ。「オール・オブ・マイ・ライフ」はテープ逆回転を駆使、純粋リボルバー系サウンドで成功した一例。先週書いたMGRの"Time Will Show The Wiser"と比べても決してひけをとらない。ダーツ「ブーケをそえて」やルート・ファイブ「リリー」など、どうしようもない曲のB面にさりげなく隠された曲の意外な輝き。後者なぞPsychedelic Unknownsに入っていても違和感ない。そしてラストはシタールが荒れ狂う真性フラワー・サウンド、マイクス「ランブリン・マン」で締めくくる。
Vol.4 Classica/Fairyland
ガレージ系が海外経由で再評価されるまで、GSのパブリック・イメージとされていたオーケストラをバックにしたバラード、そしておとぎ話系の歌詞。この二つを徹底的に掘り下げたのがこのボリューム。といっても大ヒット曲のたぐいは選ばれていない。あくまでもカルトGSらしく、過剰なもの中心の選曲。やっぱり頭はアダムス「旧約聖書」でどどーんと。ちなみにこれを歌ってるのはVol.1で「のっぽのサリー」を絶叫したのと同じ人だ。これにピーコックス「妖精の森の物語」とフィンガーズ「少女へのソナタ」が続くだけでもかなりきついと感じる人も多いと思う。しかし絶叫に耳を塞ぐのが無意味なことなのと同様、これもまたGSの側面である。じっくり向き合おう。総天然色の風景に圧倒されるぞ。テンプターズ「宮殿に通ずる長い橋」、ランチャーズ「誰も読めない手紙」のプログレ寸前(後者にはミレニアムの影も少々)の世界、そのパラノイア性もまたGS的喧騒の産物か。後半「おとぎの国」の世界は、冒頭のスケルトンズ「星の王子さま」の冒頭の語りに全て要約されている。サイケな白昼夢がかいま見せた風景は、確かに完全非現実の世界。それを表現するサウンドも変な意味でゴージャス。サニー・ファイヴ「白鳥のバラード」の、デモ盤のみ出回ったオーケストラ入りヴァージョンが初商品化されたことだけでもこの巻の意義は大きい。かえって発売ヴァージョンのシンプルさが特異すぎて受けなかったかがよく解る。大好きなテリーズも二曲入っているが、ルックス冴えないなぁ、この二組は。ポニーズも入るべきだと思うけど。まあ一言で言えば、このBOX中唯一ガール・シンガーには決して再現出来ないものがこの一枚である。だからこそ元祖ヴィジュアル系としても楽しめる一枚(うん、ルックスは別ですよ)
Vol.5 Psychedelic/On Stage
GSはサイケそのものだから当然サイケってテーマもなきゃいけない。というわけでサイケ爆弾13連発。英国サイケのカラフルな部分を過剰に増長したのがVol.4の前半だとしたら、ここで聴けるのは米国サイケの、捻れたガレージ感覚の過剰化を反映したものだ。といっても過激なテープ操作や凝ったエフェクトが聴かれまくるわけではなく(一部除く)やはり芸能界シフトで動いていた日本のレコード業界の限界を思い知る。しかしやる時ゃやるのだ大和アシッド魂。シングルA面とは思えない壊れまくったモップス「お前のすべてを」(「旧約聖書」と作・編曲者、発売時期が殆ど同じとはどうしたことか)。やっぱり「ブラインド・バード」はだめだったのか。Vol.4のタイガース「730日目の朝」は大丈夫なのに。ブルコメの「サイケデリック・マン」にもデビィーズ「恋のサイケデリック」(ここには未収、残念)と同系列の虚無風景がある。そして海外でも評価高いカップスの壊れ放題「ヘイ・ジョー」。やはり彼らは何をやろうがいかし過ぎ。サイケ性は演奏力の高さに比例するというのも日本ならではなのか? そして後半はGSのライヴ・アルバムより厳選された、当時の風景を伝える7曲。本来の姿を敢えて壊してみせるワイルド・ワンズとランチャーズの熱演、そしてオックスとテンプターズが煽る女子達の喧騒に、実体験できなかった私は思わず涙目になってしまう。いい意味でガレージと程遠いプロ根性を感じてしまう。かっこいい、ショーケン。
Vol.6 Soft Rock/Lounge
ラストは今ならではの視点によるソフトロックとラウンジ編。海外でガレージGSの評価が高まるのと呼応するように、海外のロック史で軽視されてきた洗練されたハーモニーとポップ性を武器とするグループ達が日本で再評価されたこの10年。だから60年代に同種のグループが日本にいたっておかしくないではないか。そんなこんなでフィフィ・ザ・フリー、ハーフ・ブリード、リリーズにやっと光が当たり、そしてその影響は海外にも飛び火しつつある(Ron氏の熱狂ぶりを見るまでもなく......) 何故か権利関係がクリアできなかった「栄光の朝」が入っていないのは残念だが、10曲レベルの高い作品が並ぶ。遠い北欧で一紳士の目をらんらんさせまくった名曲、P.S.ヴィーナス「青空は泣かない」は当然収録。ここでのびっくりはバニーズ「幻想の世界」。寺さんの影を脱した彼らがレベルの高い演奏とサウンド構成を12分に渡って聴かせる曲で、ソフトロックというよりVol.4収録の2曲と並ぶプログレ派驚愕の一曲。スキャット、オーケストラから尺八まで抜け目なくぶちこんだ大変な世界である。後半はこれも近年特有の現象であるラウンジ・ミュージックの要素を含んだインスト曲が並ぶ。Vol.2で「最新鋭のフロアでDJが回すサウンド」とした音の要素はむしろこちらに多く含まれている。モッド・ジャズに匹敵するヒップさながら、たとえばオルガンのさびれた音やフリーキーな合いの手にGSならではのカラーを感じることが出来る。スティール・ギターをエフェクティヴに使ってサイケを先取り(アフターグロウ"Suzie's Gone"より2年早い)したスパイダース「トワイライト・ゾーン」(レア・ステレオ・ヴァージョン!)、そして沖縄民謡もサイケのモチーフとして活かせることを証明したブルー・ジーンズ「安里屋ユンタ」が聴きもの。
以上122曲、6時間強に渡って油断させない日本音楽史の記念碑「カルトGS BOX」。喜多村次郎(カーナビーツ)、大口広司(テンプターズ)、本城和治(フィリップス・レーベル)ら当時の関係者達が生々しく語る、そして貴重な図版をたっぷり含むブックレットも重量感いっぱい。GSを体一杯で感じたいあなた、これは手元に置いておかないと一生損しますよ。そしてマニアの方は自分なりのアナザー・カルトGS・コンピ作って楽しむのもおつなものですよ。あああっ、乗らねぇどころか乗りすぎ。
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