8月の「ココロの寄せ鍋」(夕顔と夢桜の花で飾り付け)
山口美央子 「ANJU」
F/Pony Canyon C28A-0451 (LP-85年11月21日発売)
ココロの寄せ鍋史上初の日本のアーティストとして登場するのは、個人的にも思い入れありまくりの山口美央子さんです。H45をスタートさせた時もまっ先にこの人の事について語り、そのおまけとして提供作品リストまでアップしてしまったのです。ネット活動を続けているうちに、未知だった提供作品を知る事ができたり、そして美央子さんファンの方々に巡り会うこともできたりで、思い入れは小さくなることはありません。マニュエラでDJやった時も一曲目にかけました、"A Dream Of Eμ"。
たった一つ、3年前と変っていない悲惨な状況は、彼女が自ら作り歌う曲の数々がCDでリリースされていないということなんです。需要は絶対あるはずなのに。彼女が初めて他人に提供した曲である、金井夕子の「可愛い女と呼ばないで」が収録されているアルバム「ecran」がテクノ歌謡シリーズのラインナップに含まれかけたのに、都合により再発できなくなったという話でさえも憤慨させるファクターとなったのです。彼女自身のレコード自体テクノ歌謡としても素晴らしい出来だというのに。
そんなわけでせめてもの供養と希望のためにここに登場するアルバム「ANJU」。このアルバムは彼女が発表した3枚のアルバムからの選曲に新曲を2曲加えて構成されているのですが、只の山口美央子ベストではない。最大のヒット曲「恋は春感」(だいたいこの曲が、数多くリリースされているポニーキャニオン関係のヒットものコンピのいずれにも入っていないこと自体納得できなさすぎる)は収録されていないのです。しかしただのベストではないという事情は、彼女自身が寄せているライナーにより解明されています。このアルバムに収録されたのは、東映ビデオから発売されたはずの同名映像作品で使用された楽曲。昔のアニメから編集した映像に美央子さんの曲を合わせるというコンセプトで制作されたこのビデオの存在を、相当コアな美央子さんファンでさえ認知していないというのですから、まさに「幻」ですな。このアルバム自体も、市場に出回った枚数はオリジナル盤3作より遥かに少ない。中古で巡り合える確率も実に低いのです。だからこそ、ココロの寄せ鍋なのです。
一曲目の思わせ振りなインスト曲、「A Dream Of Eμ」を筆頭に、80年11月発売された衝撃のデビュー作「夢飛行」から選曲されたのは(3)のタイトル曲、(9)「アラビアン・ラプソディー」の計3曲。MC-8を多用したシンセ・サウンドと叙情的メロディ、そして舌っ足らずな歌声の融合は快感としか言い様がありません。オリジナルLPのクレジットではアレンジが美央子さん自身と井上鑑氏の連名となっていたんですが、ここでは井上氏の単独となっています。(1)なんて100%美央子さん自身の仕事だと思うんだけどなぁ。名曲すぎる(3)は86年、香港で徐小鳳がカヴァー盤をリリースしてヒットさせています。これはCD入手可能なんだけど。
81年7月の2作目「Nirvana」からは(4)「コードCの気分」、(5)「秋波」と(7)のタイトル曲の3曲がセレクト。前作のテクノ的サウンドにさらに肉感的・神秘的色合いを加え、音作りはカラフルになっています。しかし基本的にはのほほんなポップ世界。このアルバムには先に書いた「可愛い女と呼ばないで」のセルフ・カヴァー盤も収録されていました。
ヒット・シングル「恋は春感」に続いて83年3月リリースされた3枚目のアルバム「月姫」は、土屋昌巳氏プロデュースによるトータル・コンセプト・アルバム。この作品なんかは藤真利子の「狂躁曲」がやっと受け入れられた今なら絶対歓迎されそうな名作と思うんです。初歩的なサンプリングを活かした先鋭的サウンド、そしてめくるめくファンタジーの世界。そんな「月姫」からはタイトル曲(8)以下、5枚目のシングル曲ともなった(6)「さても天晴・夢桜」と(10)「鏡」の3曲が選ばれてます。(6)で聴かれるのはエレキ尺八か? とのラジオ番組の司会者の問いに彼女自身は「いいえ、ただの縦笛です」と答えてました。艶っぽい音出しています。
そしてこのアルバム(ビデオ)のための新曲、且つ美央子さんのアーティストとしての最後の作品(悲)となったのが、アルバム・タイトル曲(2)「ANJU」と最終曲(11)「恋するバタフライ」の2曲。何れも久石壌氏の編曲によるもので、アルバムの他の収録曲と比較するとかなりポップ、かつテクノ歌謡色も濃厚。
「この次のLPでは、自閉気分を脱皮して、きっと軽い気分の私と出会うことでしょう」とライナーに書き残した美央子さんは、やがて職業作曲家として輝かしいキャリアをスタートさせることとなる。開かれた地平の向こうにはやはり数々の名メロディがあったというわけです。今年でデビュー20年。早いもんです。

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