
1. ザ・ローリング・ストーンズ/12×5
(Abkco UIGY-7002 64年作品; 2002年11月6日再発売)
究極の極悪非道者(人ではなく、円盤です)が現われたからかどうかは解らないが、ロック史において極悪非道とされていた方々が悟りを開き、我々音楽ファンを狂喜されてくれたのがこの2002年という年である。先月触れたザ・フーの『マイ・ジェネレイション』でのシェル・タルミーの居直りに続いて、今度はアラン・クラインのアブコだ。奴等が権利を持っているローリング・ストーンズのデッカ時代の作品群が、1986年以来久々にリマスターされCDで復活したのである。
ストーンズの前回のリマスター時の責任者となったのは、初代プロデューサー/マネージャーを務めたアンドリュー・オールダムだった。彼のインタビュー記事の中に「タイミングのずれているタンバリンを元に戻した」という一文があったりして、このリマスターは原音のニュアンスを活かすというよりは、細かなディテールを気にしすぎてかえって繊細さが薄れたという感じの仕事であり、明らかにそれ以前英デッカ主導で行われた最初のCD化の方が音質がよかったという皮肉な結果を生んでしまった。しかし今回のは気合いからして全然違う。良質のソースを探す為に世界中をリサーチ、そして丹念なリマスター作業で音盤へと焼きつけられる。その音盤は通常のCDと、さらに高音質を追究したスーパー・オーディオCDの2層となっており、今後のオーディオの行方を占う意味でも重要なリイシューとなったわけである。まぁ、タルミーが『MG』のオリジナル・モノ全曲を忠実に入れなかったのと同様、22枚も出さなくてもいいだろうにという落度はあるにはあるが、今回の圧倒的な仕事の前ではまぁいいかという気分になろうと思う。ちなみに『フォーティー・リックス』の1枚目のデッカ作品集は、これらのリマスター音源より構成されており、その20曲だけでも今回の仕事の凄さが解ると思う。まぁ、「無情の世界」のイントロで右チャンネルに隠れていたノイズがでかくなってたのにはちょっとなぁと思いましたけどね。
で、単独アルバムとして何から買おうかちょい迷った。結果買ったのがアメリカでのセカンド・アルバム、この『12×5』と、67年の野心溢れるアルバム『ビトゥイーン・ザ・バトンズ』である。後者についてはまた改めて書く機会を持つとして、今回はこの『12×5』だ。ストーンズの初期のアルバムはアメリカとイギリスで異なる編集で出ていたというのはあまりにも有名で、今回のリイシューでは両者が(同タイトルのアルバムでさえも)仲良く同居している。CDの利点を活かして英国オリジナル+ボーナス・トラック(例:フー、キンクス)みたいな売り方をすれば、10枚出せば済んだわけであるが。ビートルズみたいに英国盤が純粋なオリジナルであるという概念は、ストーンズに関しては無駄だと思うし、アブコもその点で迷ったんだろうが、やはり一言「せこい」と言いたくなるぜ。まぁキングの米国盤に準じた発売で育った日本のベテラン・ファンは、米国盤の方がどうしても馴染み深いということになるんだろうけどな。
で、一言でこのアルバムの特徴を表すとすると....64年のアメリカ・ツアーの際、シカゴ・ブルースの本場チェス・スタジオで録音した5曲を収めた英国盤EP「Five By Five」にボーナス・トラック7曲を入れたアルバムと言っていいか。そのチェス録音の曲、EP収録の5曲とシングル曲「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ」の計6曲が、このCDにはクリーンなステレオ・ミックスで収められているというのが大事件だ。以前にも色々な編集盤LPに細々と収められていたステレオ・チェス録音の全貌が遂に拝めるというわけである。黒人音楽のメッカを訪れてわくわくするロンドン乞食達の心の疼きが最良の形で甦ってくる。特にインスト曲「南ミシガン通り2120」が素晴らしい。かつてフランスでLPに収録されて出たという、従来より1分30秒も長い幻のヴァージョン、しかもステレオ。その長くなった部分で聴かれるギター・ソロは、彼等の憧れの人、マディ・ウォーターズ本人によるものというから涙ものだ。ブライアンも大活躍。
残る6曲はイギリスでの録音で、内4曲は英国盤セカンド・アルバム『No.2』に流用されたものであるが、どうしても覇気という点で劣ってしまってるのがしょうがない。ともあれ、このチェス録音をきっかけに彼等は大きな自信をつけ、ロック界をリードする勢いを手に入れるというわけであるが、ここでの純真さは....そう、GSに通じるものなんだなと一言付け加えておきたい。ともあれ今回のリイシュー、ここではオルガン・イントロ・ヴァージョンで収録されている「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」の宮原安春訳詞ヴァージョンを借りて言うなら「果報は寝て待て、そうだよね」。寝て待った甲斐があったというものです。でもやっぱ、11月出る国内盤(限定盤、価格は2800円とか)にはアレの訳の方が付くんだろうなぁ。(「これからがチャンスそうその通り」ってやつ)
2. 三上寛/BANG!
(URC/Avex io IOCD-40028 1974年作品;2002年10月9日再発売)
CCCDになる、ならないで一悶着ありましたが、結局良識が勝って最初のリイシュー・シリーズは非CCCDでの発売となったURC4度目のCD化。 89年のキティと94年の東芝、各々のCD化の間にひょんなことで金延幸子が再評価という事件はあったものの、今回のエイベックスからの再発はそんなもんの比ではない追い風に包まれており、再び名盤の数々を容易に手に入れられることになるのは嬉しい。CCCDなんて規制を装ったプロパガンダに毒されてはいけない、純粋な毒を孕んだこれらの音群は荒んだ心を逆に浄化してくれるのだ。10月9日発売される第2回発売10枚の内、最も要注目なのがこの三上寛のアルバム『BANG!』である。東芝の最終在庫処分の際も店頭に並ぶことがなく、永らく入手が困難となっていたアイテムであるばかりか、URCの全作品の中でも屈指の時代感に捕われない特殊感覚を持った作品として、今の音楽ファンに是非聴いて頂きたいアルバムなのである。
去年吉祥寺曼陀羅で観た三上寛のライヴは、衝撃的とかそんなものを通り越した存在感の一夜としか言えないものであった。未だに活発な表現活動を絶やさないこの男の一貫した特殊性が、スタジオという閉鎖された空間の中で最も効果的に暴れ回った結果がこの74年のアルバム。山下洋輔のサウンド・プロデュースにより、整頓された混沌感と言うべきものが生まれ、寛の歌の回りに黄金のオーラを形成している。穏やかな瞬間があると思えば、爆発的な怒りに圧倒され。その揺り返しが人間本来のもつ素の感情を浮き上がらせている。最早フォークでも演歌でもない、ファンクと呼びたい境地に達してしまってる歌群である。
ベックの新作『シー・チェンジ』を聴いて、その深遠なたたずまいから最初に連想したのがこのアルバムである。控えめな混沌に赤裸々な心情、それだけではない、聴けば聴く程深みにはまっていきそうな魔力をこの2作は共有していると思う。ベックやレディオヘッドやら最近のメロコアとか聴いている若い人たちに是非このアルバムに接して欲しいと思う。それにしてもこのタイトル曲の圧倒的なこと。私はたまたま小学生の時にラジオで聴いて(深町純がやってた「音楽ってなんだ?」という番組だったのだが)、素直に打ちのめされたのだった。今もなお。サンプリング的手法と説明書にあるが、サンプリングみたいな巧妙な行為とか、ましてや当時の現代音楽で頻繁に行われた「引用」よりもはるかにせこいコラージュではある。しかしその塊の重みはなんとも形容しがたい。それを乗っ取る寛のアジ。「コピーコントロールCDにBA-------NG!!!!」と密かに一言加えて欲しかったところだ(それはなんでも.....)
最後に、今聴いているのは89年発売のキティ盤だが、今回のio盤リイシューは遥かに優れたリマスターで蘇生されているに違いないということを付け加えておこう。あなたの心にパンチを食らわすとしても、あなたのマシンに危害は加えませんので御安心を!
3. V.A./カルトGSモンスターズ [ビクター編]
(Victor VICL-60949 2002年9月21日発売)
お陰様で売れまくってるようです、ビクターのGSリイシュー4タイトル。我が僚友、川口ディレクターの奮闘振りに今夜も祝杯を挙げております。そりゃ色々とありました。ダイナマイツのあの件(解らない方はロック画報No.9を今すぐ買いに行って表紙裏をチェック!)など、イベントでは一部話されてしまったとはいえとても公に出来ない波乱万丈もいくつかありました。でもリイシュー道ってそんな平坦じゃないってこと皆にも解ってほしいんです。ただ単に出しゃいいってもんではない。一つ一つの作品を歴史に刻み込むような渾身的姿勢が全てのリイシューに求められて当然なんであります。もちろんリマスター師の仕事にも拍手。
で、ここではオックスはあえて取り上げず、他2組も通り過ぎて一気にカルトの核心に迫ります。去年クラウン編2枚がリリースされ大反響を巻き起こした、黒沢進先生の新シリーズ『カルトGSモンスターズ』のビクター編。92年にリリースされた『カルトGSコレクション』をさらに拡大解釈、3大グループの曲を外してよりカルトな面々の魂に集中射撃というど偉いヤツです。何やかんや言って初CD化というのが8曲、さらに未発表曲が1曲。のっけは元祖新宿系歌姫、チコとビーグルスの3枚目のシングル「新宿マドモアゼル」。GSとしてはマージナルな存在ではあるけど、筒美京平のあの路線を得てのまさにACBの空気そのものである。近年は渚ようこの歌唱により知る人ぞ知る名曲となっており、渚ファンは是非「シャム猫を抱いて」(収録アルバムはもち『東京ボサノヴァ・ラウンジ』)とセットでどうぞ。続くはファンキー・プリンス。逆説の極みのようなバンド名であるが、そのファースト・シングル「おやすみ大阪」は間違いなく、『カルトGSボックス』発売後の2年の間で最も評価値の上昇幅を大きく広げたGS曲である。ムード・コーラスに通じる世界ではあるが、微妙に無国籍(特に「おやすみ明日も...」の所のコード進行が何げにぶっとんでいる)でロックと非ロックの間の池の様である。渚にてがカヴァーするのも納得(しかし「渚」絡みが多いなぁ)。あとの3曲は可もなく不可もない上方歌謡。フォー・ナイン・エースのB面曲「アイシテ・アイシテ・オクレ」は今回の初CD化中の目玉。グルーヴィになりそでならない微妙なじらし屋さん。ザ・ジャイアンツと名の付くバンドは承知の通り2組存在しており、後進組のヒット・シングル「ケメ子の唄」は『アングラ・カーニバル』等既発CDのヴァージョンでカットされていた最後のセリフが、オリジナル・シングルの通り復活して収録されている。続くシングル「どうしても女に....」は『アングラ・カーニバル』に入ってるからいらないと思ったんだけど(黒沢さんごめん!)。さらに続くシングル「遠い夏」の方を聴きたいって人の方が多いだろうしなぁ。そこをカヴァーしたのがもう一組の方のジャイアンツ(後のアイドルス)の未発表曲「女の子」の発見。テケテケをさり気なく入れた朴訥なフォーク歌謡である。あとはサン・フラワーズの豪快なフォーク・ロック(しかし「サン・フラワー」のイントロは何度聴いてもTGの"Something Came Over Me"を思わせる)、今回一挙に全貌初公開となったサニー・ファイブのクリーンな楽曲群(流石に「白鳥のバラード」はストリングス・ヴァージョンではなく、あの一曲のためにBOXを買ったマニアは安心.....おいおい)、そしてザ・フレッシュメンの疾走青春碑。最後にこの、有線GSチャンネルで流れる(そして、萎えさせ〜ぇぇぇる)頻度高い迷曲「お花おばさん」が配されているのがいやが上にも余韻を長引かせてくれる。
確かにこのビクター・カルトGSには、有線で10曲に1曲位の割合で流れると安心させてくれるそんな魔力がある。ビクター編Vol.2(「遠い夏」の他にネタある? そうか、トニーズとかあの辺....)も計画されているらしいし、モンスターズとしてコロムビアやユニバーサルに進出という手もありそうなので、今後の動向に注目しよう。